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お題配布元:31days 


31days
01.日常 02.まじない 03.心の準備 04.朝焼けを見た日 05.雨音
06.イージーラブ 07.沈丁花 08.メッセージ 09.ボタンひとつで 10.公衆電話より
11.リビドー 12.やかましい 13.深夜 14.主義 15.「さようなら」
16.嫌な夢 17.YOUR SONG 18.死ぬとして 19.やさしい気持ち 20.十年後
21.みじめ 22.今日の天気 23.真っ赤 24.ホリデイ 25.カシスソーダ
26.彗星 27.夢見がちな子 28.30億の孤独 29.君と月見 30.イッツマイライフ
31.美しき日々


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日常 days



 何も無い日は死にたくなるよねと言ったら、
 「アホか!」って叱られた。

 たまにタバコを全然吸わないでいると、
 「どうしたん、具合悪いん?」と聞かれる。

 センチメンタルにため息ついてれば、
 声もかけられずほっとかれる。

 両手に抱える全てを投げ出してここから逃げてしまいたいと思うことも
 時間によっていつか少しずつ失ってしまうだろう何かを惜しむことも
 ここでなら許される。

 

 プチ脱走から帰ったら、スタジオのテーブルにメモと赤いマルボロが1ケース。
 「トイレ休憩。作業再開は30分後。」
 律儀な走り書きにリーダーアリガトウゴザイマスと手を合わせ、
 マルボロを掴み取ると、人恋寂しさに泣けた。


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まじない a familiar magic



「それってさぁ、」
 言葉と同時、そっけなくやった目線の先には。
「気付かへんもんなん?」

 と、ハイドくんに指摘され思わず自分の手元を見やる。
 仰々しく吊られた、包帯ぐるぐる巻きの手。
 あ、コレでパンチしたら痛そう。(自分も痛いけど)

「んーなんか変だなーとは思ってたよ?」
「けど、痛いんやろ?わりと」
「うん、かなり」
「かなり?」
「かなり痛いね」
「じゃあさぁ、」
 余計にはよ気付くやろ、とテツくんにまでツッこまれたが、そう言われても。

「そんなんでようドラム叩けたねぇ」
 感心したふうを装ってるケンちゃんだが、その実目も声も上の空でホントどうでもよさ
そう。
「うーん、ステージ上がる前にね、こう、痛いなーって思ったら、ギューッと思いっきり
手首握りしめて、」
「おいおいおい」
「したら、こう、あつーくなってくんの、手首が」
「いやいやいや、あかんやん、悪化してるやん」
「熱もってきちゃってるやん、けんしょーえんが」
 テツくんは何考えてんのとなかば呆れ怒り状態だ。

「でも、そしたら不思議と叩けるんだよねぇ、ドラム」
「不思議て・・・」
「ハンドパワー?かな?」
「そんなかわいらしく小首かしげなーい」
 今後一切ハンドパワー禁止!
 リーダー久々の禁止令がでた。

「まじないみたいなもんやんねぇ」
「ねぇ」
 まじないも禁止!
 ハイドくんと一緒に小首傾げたら、再度リーダーの声が飛んだ。


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心の準備 ready for accidents



 しばらくのオフを過ごし、曲出し会議で久々にメンバースタッフと顔をあわせることと
なった。
 オフの間は、どっぷり音楽に浸かってるかまったく音楽と関係ないところでいるか両極
端なので、仕事のリズムに戻すのはなかなかむずかしい。
 とはいえ勝手に戻るんやけど。プロやしね。

「リーダー焼けたねぇ」
「ユッキはさらに白くなってるなぁ」

 俺があちこち飛び回って遊んでたあいだも、この人はやはり音楽浸けだったようだ。

 音楽というもののもつパワーのすごさを改めて思い知らされる。
 とくに、こーゆうときは。
 生まれたばかりの新しい音楽、まだ未完成ながらそれはすでに強烈なエナジーを発して
俺の体を呑み込んでくる。
 喜びも、悲しみも、怒りも、すべてその音に収束される。
 それは膨大な音の奔流だ。

 ビリビリと、雷に打たれたかのような感触。
 これが好き。

「じゃあ、はじめましょうか」
「あ、ちょっと待って」

 まだ心の準備が。


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朝焼けを見た日 beautiful sunset with you



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雨音 sound of rain



 雨粒が落ちて水たまりにできるたくさんの小さな水紋を見ていると、
 車酔いしたみたいに気分が悪くなる。

「なんで?」
「だって、地面を叩く雨音と、あの水紋ができるタイミングって微妙にずれてるやろ?なんか
気持ち悪いやん」
「ふーん」
 やっぱケンちゃんてちょっと変わってるなぁ、とハイドは笑った。

「雨音って、言葉で表すのむずいよねぇ」
「あーたしかに。雨粒ひとつひとつやとティン、トン、って感じに聞こえるけど、すぅごい降
ってるときはザーザーしか聞こえへんし」
「リンリンって聞こえるときもある」
「うそ。どんなとき?」
「んーと、なんか、なんだろ、葉っぱとかやわらかいのに雨粒が当たったときとか」
「さすがユッキー」
「不思議な感性ですな」

 俺は俺の目でしか世界を見ることはできないから、本当は世界にはもっとたくさんの姿があ
るんだとつねに心しておくべきだし、
 自分のこの世界が唯一の真実じゃないことを、自覚しておくべきだと思う。俺はね。



 人はみな異端であり孤独だ。
 雨音ひとつさえ、本当の姿が見えないのだから。
 
 

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イージーラブ easy love



「愛してる。」
「聞き飽きた。」
「好きだ。」
「薄っぺらい。」
「・・・毎朝俺のために味噌汁を作ってくれ。」
「・・・ハイちゃん古い。」

 キスしたり触れ合ったり、甘い言葉を吐いてみたり、
 そうゆうのだけじゃないだろう、恋愛ってのは。

「昔はもっと切羽詰ってレンアイしてた気ぃする。」
「言葉でなんか征服しようがないもんやったよね。」

 仕草もサインもへったくれもなく本能の赴くままに行動したし、
 ぎこちないセリフじゃ伝わらないこともたくさんあった。

「じゃあ交替。次ケンちゃんな。」
「んん。んー、・・・あいしてるよぉ〜〜?」
「そーれは反則やろー」

 100%相手の言葉を信じるなんてできるわけない。
 好きになったら相手のことを疑って当然だ。
 恋なんて。でも恋じゃなきゃ。
 簡単にだまされてやったりも、できないじゃないか。


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沈丁花 a fragrant flower



 あの、赤い花の咲くあの道が、あれより長くても短くても、
 きっとダメだったんだと思う。



 その日は本当に偶然に2人きりになった。
 朝の登校時には集団登校だったからいつも周りにうるさい連中がいて(その中には現在のうちの
ギタリストもいたと思う)、おまけにその子は女の子の集団の中にいたから、遠くて、声をかける
ことすらなかった。
 思えば少々ませた小学生だったのかもしれない。小学校4年生にして初恋なんて。とはいえうち
のボーカリストは小学校とか幼稚園の頃から女の子と付き合ってたとかゆうし、最近の子は早熟だ
なんだかんだで、小学生のうちから付き合ってたとかフツウなのかもしれないけど。
 とにかく初恋だった。彼女はちっちゃくてふわふわしてて、1人だけみんなとちがう、ピンク色
のランドセルを背負っていた。
 その子の笑い声とか、友達とスキップしたりだとか、そういうことがいちいち気になって、たま
に目が合うとドキドキして、そんな自分が滑稽だったけど、上の空で歩いてて道路わきの溝にはま
って左足を血だらけにしてしまうほどには重症だったし本気だったのだ。
 偶然にやってきたチャンスだった。たまたま委員会があって、遅くなって、1人でいつもの帰り
道を歩いていたら、たまたま友達の家から出てきたその子とばったり会った。
 彼女はびっくりしてたけどそれ以上に俺は動揺しまくっていて、「今日は1人?」「いや、うん
なんかほら、委員会あって、おれ保健委員やから、それで、遅くなって、うん、たまたま」という
なんとも不器用な返事をしてから、2人で並んで歩きだして、しばらく無言だった。
 おれは横を歩く彼女を時々チラっと見やりながら、一世一代の大決心をした。たぶんこのチャン
スを逃したらダメだ。次にいつこんな好機がおとずれるかわからない。
 言うなら、今しかない。
 たしか3月の始めかそのあたり頃で、道の両脇には色づいた草花があたたかい風にゆらゆら揺ら
れていた。角を曲がったところで、公園沿いのまっすぐの道があって、そこを通り抜けたらもう団
地がすぐそこに見える。彼女との分かれ道だ。
 公園沿いの道には、赤っぽい色の花が咲いていて、その花の甘い香りで包まれていた。この匂い
をかぐと春の訪れを感じる。花は道が終わるところまでずっと連なって咲いていた。その向こうに
は分岐点の目印である電柱。
 いつもは走り抜けてしまう道を、思いのほかゆっくりと歩いた。一歩一歩進むたびに、心拍数が
上がって、ぎゅっと握り締めた手には汗がにじんだ。いつもと変わらない道なのに、やけに長く途
方もなく感じる、いやむしろ短いと思ったかもしれない、もうすぐ、もうすぐ分かれ道にきてしま
う。
 緊張して顔も上げられない。風がふいて、甘い匂いがすっと通り抜ける。彼女の髪が、さらさら
と揺らめいた。
「あのさぁ・・・」
 歩きながら呟くと、彼女はちょっと首を傾げて、なに?と返してきた。やわらかい声。
 おれは高鳴る心臓を押さえつけるのに必死だった。口をあけたら、このドキドキという音がもれ
てしまいそうだった。
「おれさぁ、・・・おれな、好きなんやんか、あんたのこと」



 あの、赤い花の咲くあの道が、あれより長くても短くても、
 きっとダメだったんだと思う。

 今、どうしても伝えたいことがある。
 あの道が、今、ここにあったなら。


 

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メッセージ massege



 あなたの言葉が私にとってどれほどだったか、あなたは知らない。

 あなたは私に言葉の無意味さを教えてくれる。
 言葉がいかに無力で、
 不自由か、
 教えてくれる。

 あなたが口に出した途端、言葉は真実ではなくなるし、真実はうそになる。
 言葉は幻想になる。
 壁ひとつ越えられない、言葉は、なんてあいまいで、不器用なんだろう。

 あなたの口から出るのはあなたが作り上げたものだ。
 あなたの言葉はあなたが作り上げた世界だ。

 しかしあなたの真実はそこにしかない。
 あなたの言葉だけが、あなたの真実であり、あなたのすべてだ。

 そして私にとってのすべてだ。
 


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ボタンひとつで by pressing one button



 殺伐とした刑事ドラマ、煩すぎるバラエティ、間延びした野球中継、
 重たそうな銃器をかまえるアメリカ兵。

 ボタンひとつでこんなにも世界が変わってしまうから、
 なにもかも、非現実なブラウン管の向こうの出来事だと勘違いしてしまうんだ。

「なんかさぁ、」
 こんな言い方したらアレやけど、と前置きしてテッちゃんは続けた。
「全然現実味がわかんねん。あんなふうに、子供が傷ついてるの見ても、かわいそうと思って、
でもそれだけ」
 楽屋におかれた小さなテレビ。
 ソファに座って2人してそれをぼんやりとただ眺めてる。
「なんも感じひんわけじゃないけど、やっぱ実感ないし、まるで映画かなんか見てるみたいや」
 俺って、冷たい人間かな、と。

 手足を失った子供たち、抱きかかえて泣き崩れる父親、疲労し昏々と眠る兵士たち。

 まちがいなくこれは自分たちと同じ世界でおきてる現実のことで、
 今この瞬間にも、自分たちと同じ人間が殺しあって奪いあって憎しみあっている。
 だけど。

 俺にとってはそれはブラウン管の中だけの話で、
 俺の現実は、背後で忙しく行き来するスタッフたちの喧騒だとか、
 目前に迫ってるライブのゲネの打ち合わせだとか、
 今日の夕飯はなに食べようかなぁとかそういったことだ。

 安寧の中で生きる平和ボケしたバカ幸せな。

「でも俺は、もしあそこにテッちゃんがおったら、隣りに立って一緒に戦うと思うよ」

 テレビを見つめていたテッちゃんがこっち振り向いて、少し驚いた顔を見せた。
 そして小さく笑って、
 俺も、ハイドさんがあそこにおったら、横で一緒に戦ってるなぁ、
 と、呟いた。
 


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公衆電話より call me by public phone



『おかけになった番号は、現在使われておりません』
 ピーッ



「はい、どちらさま?」
『・・・・・』
「・・・誰ぇ?」
『・・・あたし・・・』
 夜中に入った電話は、少し前に別れた彼女からだった。

「・・・ああ、ひさしぶり。元気やった?」
『あのね、聞いて?あんなこと言うつもりなかったよ、でもつい言いすぎたのよ、ごめんな
さい』
 電話越しの彼女の声は、ずいぶん切羽詰った様子だった。
 まくしたてるように早口で。
『ごめんなさい、すぐにでも謝るべきだったね、こんなに後悔しなくてすんだのに』
「・・・どうしたん?なんかあったん?」
『ほんとごめんなさい、赦して、」
「や、うん、いいよもう。なんかあったん?いつもとちがうよ、なんか」
 困惑した。数ヶ月連絡とってなかったし、しかもこんな真夜中に、突然電話してくるなん
て。
 彼女のようすはいつもとはだいぶ違ってた。こんなに素直に気持ちを吐露する人ではなか
った。言葉で直接謝ることなんかなかった。
 彼女はこっちの言葉なんか聞こえてないみたいだった。伝わってくる息遣いも、荒い。
『好きだった、今でも好き、どうしても言っておきたかったの、好きなの、それとごめんな
さい、一緒にいるだけでよかったのに、何もいらなかったのに、ワガママでごめんなさい』
 ザー、ピーッザーーー
『ごめんなさい、ずっと謝りたかったの、今でも好きなのよ、』
 思い詰めたような彼女の必死の声に、ノイズが混じる。
 ふと思い出す。
 少し前、ひさしぶりに電話をかけようと思ったらかけれなかった。携帯電話の番号を変え
てしまったのだろうとあきらめた。
 この電話が着信したときの表示は、非通知。
「・・・・なぁ、今どこからかけてきてるん?」


『あたしを忘れないで』



「次の日の朝刊のすみっこに、飲酒運転の車が対向車両にぶつかって、運転手の女性が死亡
って記事が小さく載っててん。ぶつかった車はそのままスピンして公衆電話のボックスに突
っ込んでてんて」
「その、死んだ女性ってのが、彼女?」
「うん。事故がおきたんは夜中の1時。彼女から電話があった直前に、その人は死んでたは
ずやねん」
「うっわ怖」
 もういいもういいとユッキーは両耳をふさいで離れていった。今さら遅いと思うけど。
 真横にいたテツは、世の中不思議なこともあんねんよなぁ〜と妙に感心したようすで、怖
いわぁケンちゃんの話し方が怖いねんなどと呟いてる。

 ただ正面に座っていたハイドだけがじっとこっちを見据えたままで、一言、
「それってケンちゃんの友達の話やなくて、ケンちゃんの話とちゃうん」

 さすがハイドさん、こうゆうときは勘が冴えてます。




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