「モノカキさんに30のお題」を途中まで挑戦した残骸たち(笑)

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冷たい手



「・・・男と手ぇつなぐなんて寒いこと、二度としない。」
「オレも。」
 そんな寒いことを今堂々としてるのは、ここが真っ暗で、隣りにはお互いしかいなくて、背
後からは顔グチョグチョでうめき声あげる変な人たちが追っかけてきてるからだ。

「もうヤだ。帰りたい。ここから出してぇ〜〜」
「助けは来んよユッキーあきらめてホラさっさと歩く。」
「ムリ。もう前見えないし足元真っ暗。こんなとこ歩けない。」
「ユッキーんちのほうがよっぽど暗いわ・・・」

 果てしない徒労を感じて思わずため息。
 新しくバイオハザードのアトラクションできたから皆で行こうって言い出したんは、どこの
どなたでしたっけユキヒロさーん。

「ケンちゃん、オレ置いてっていいよ、先言ってそんで助け呼んできて。テツくんとハイドく
ん連れてきて。」
 手をつなぐというより、オレが仕方なくユッキーの手ぇつかんで引きずりながら歩いてると
いった感じだ。「男と手ぇつなぐなんて寒い」とかいってたわりには、ユッキーもかなりの本
気パワーで手を握り返してくる。ドラマーの筋肉に潰されてちょっと痛い。
「・・・こんなとこおったらまた怖いゾンビーズたちに追いかけられるよ。」

 てっきり人外に冷たいと思ってたその手が、
 意外にもやわらかく、あたたかかったので。
 やたら生々しく、生き物の体温を近くに感じてしまう。

 ユッキーのくせに。
 勝手に心の中で毒づく。
 このあたたかさは反則だろう。

 なんとなく忍び足で息を詰め、暗闇の中おそるおそる手をつないだまま進んでいく。
 互いの呼吸や鼓動さえ、その一点を通して伝わってしまう。

 なによりイヤなのが、
 彼の手より自分のほうが、よっぽど冷たくて硬い、機械みたいな手をしてるということだ。
 

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37.5



「アインもうすぐ誕生日?」
「あ、ほんまや。」

 スタジオのカレンダーは今月は真っ青なブルーだ。先月は目にも明るいショッキングピンク
だった。

「アイン今年でいくつやっけ?」
「当ててください。」
「えーと、さんじゅ〜〜・・・」
「ひねれよ。」
「さんじゅーう・・・ななてん、ご。」
「微妙だな。」

 37歳と5ヶ月ってこと!と、我らがバンドのギター&ボーカルは、さっぱり意味のわから
ないことをやたら威張って言ってのけた。


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螺旋



 螺旋階段はイヤだとハイドが言うから、仕方なく建物内部のエスカレーターを使った。
 せっかくのタワーなんだから、強い風を浴び、だんだん上っていく景色を眺めながら、外壁
に取り付けられた螺旋階段を昇ったほうが気持ちいいのに。

「ケンちゃんは笑うかもしれんけど、」

 単調に進んでいくエスカレーターの手すりを見つめたまま、ぽつりと、それでも確固とした
様子でハイドは呟く。

「オレ生まれたときの記憶があって、産道を通って出てきた瞬間のこと覚えてんねん。
 ぐるぐるまわりながら、ぱあって光があふれて、すごい目が痛くて。
 重力を受けた自分の体がめっちゃ重かった。
 そんときの、取り出してくれたお医者さんの顔まで覚えてんねん。」

 実際にはそんなことはありえないだろう。
 生まれたての赤ん坊の目は、まだなにも見えていないし、
 うすい膜に覆われてるので感覚もほとんどない。

「螺旋階段は、そのときのこと思い出すから、あんま好きじゃない。」

 ・・・しかしまぁ。

 世の中には彼のような人が一人くらいいてもいいと思う。
 いつかその秘められた神秘の記憶が、世界を支配するひとつの既成事実をぶち壊すことにな
るかもしれないのだから。


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永遠



 四角いファインダー越しに、ぼくはもうひとつの世界を手に入れた。

 一人で抱え込むには大きすぎるこの世界を、小さいサイズに切り取って手元において、少し
でも世界と近づいた気分になれる。
 ひとつの孤独と、世界の邂逅だ。

 現像されたそれを手にした瞬間、そのときの世界のさまざまな様相を思い出す。
 熱気、光、叫声。ふだんは見もしない観客の顔が、暗闇にひとつひとつ浮き上がる。
 この一瞬、ひとつの孤独とひとつの孤独が共鳴したということを、思い出す。

 ひとつひとつのそういった、世界から見ればあまりに卑小なものを、正確に刻んでおきたい
と思ったのは、いつからだっただろう。

 記憶は「記録」じゃない。思い込みだ。いつだって簡単に歪むし、正しい姿を保っていら
れない。
 自分の記憶は信用できない。これほど不確かなものなんてないから。

 だからぼくはこうして写真を撮る。
 目に映るすべては無理でも。せめて手の届くすべてを、正確に焼き付けておきたい。
 記憶にではなく。
 一枚の薄っぺらいフィルムに。

 すべては瞬間であり永遠にない一瞬だ。
 それは永遠と同じだ。


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迷い子



 小さい頃、
 親や友達とケンカしたら、いつもクローゼットの中に隠れて、
 一人でめそめそ泣いていた。
 そうしたらいつもオカンが
 しょうのない子やね、って言って、
 抱き上げてなだめてくれた。

 いつの頃からかクローゼットにはもう体が入らなくなって、
 俺は泣かなくなった。



「・・・なにしてんのテツくん。」
「かくれんぼ。」
 できるだけわかりやすいように単刀直入に答えたつもりだったが、いまいち伝わりにくかっ
たようだ。
 テーブルの下を覗き込んでくるユッキーは、小首を傾げて、
「なにから隠れてんの?」
「俺を本気で探してくれる人から。」


 次にやってきたのはハイドさんだ。
「テッちゃんなにしてんの。」
「隠れてんの。」
「そら見たらわかるけどね。」
 ハイドはしゃがんで、テーブルの下で座り込んでる俺と視線を合わせた。子供にするみたい
に。
「なんで隠れてんの?」
「泣きたいんやけど泣けなくて。」

 
「あ。あんさぁ、リーダーどこ行ったか知らん?」
「んーん。さっきから見てない。」
 少し遠くでケンちゃんとハイドがしゃべってる声が聞こえてくる。
 俺は知らん振りして、じっと身を固めて押し黙る。息も殺すぐらいに。
「まいごのまいごのこねこちゃん〜」
 俺は迷子でも子猫ちゃんでもないわっ。
 能天気なケンちゃんの歌声を聞いて、なぜか泣きそうになった。


「なにしてるんリーダー。」
「・・・・・・・」
「探してほしかったん?」

 ここは素直にうなづいておこう。
 ここにはもうクローゼットはないし、やさしく抱き上げてくれる人もいないけど。
 とりあえず泣きたい気持ちになったし探してるくれる人もいた。

 たぶんそれで満足だ。




 
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