見上げたあの 灰色の空から

大きな石が 落ちてきて

ゆっくりと 僕を

押し潰す

 

 

僕は 息を奪われ

冷たさに 辟易し

睨みつけても

只灰色の世界が広がるだけ

 

 

もう 逃げられない

 

 

 

 

 

 

モノクロームの落下

 

 

 

 

 

 

 

「いい色やね」

指先が少し、髪に触れ、空気を撫ぜる。
やさしい声音。

「どんな色してる?」

「んーーープラチナブロンドってゆうか、かなり白に近い」

俺は、ゆっくりと目の前のふわふわした髪に手を伸ばした。

「ケンちゃんの髪は今、どんな色してんの?」

ふわふわ。ふわふわ。
ふわふわケンちゃんは笑う。

「茶色と金がごっちゃになってるかんじ」

「なーんそれ。きれーに染めなおしーな」

「サクラよりマシやもーん」

なんて心地良い。
この生温い感触。
俺のすぐ頭上に迫る大きな石、それさえ今はどうだっていい。

「ケンちゃんは、赤やなぁ」

赤い皮パンがあまりにも鮮やかに視界を染める。

赤い。めっちゃ、キレイな。

「いい色でしょ?」

「うん」

キレイな、赤や。
もはや俺が見る色彩はそれだけ。
ケンちゃんの、赤。

 

 

 

 

海は果てしない。果てしなく黒い。

灰色の砂浜。

覚束無くて俺は

真っ白い空を仰いだ。

 

太陽の白い灼

俺の役立たずな目を貫く。

頭上に迫る、大きな石。

俺に冷たい影を落とす。

 

 

 

 

 

 

ケンちゃんと、初めて2人っきりになったとき。
ほとんど初対面の俺に、彼は。

 

「目ぇ、青いねぇ」

 

「・・・はい?」

 

ケンちゃんには俺の目の奥に青いイマージュが見えるのだという。

俺の目は、不思議な色を宿しているのだと。

 

一度でいいから、俺もその青を、見てみたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強度の色覚異常です。

 

 

 

 

先天性の。
隔世遺伝かもしれません。

これからどんどん視力は落ちていくでしょう。
ひどい弱視と乱視になります。

有効な治療法は、今のところありません。

色の見分けが難しいでしょう?
もっと難しくなります。
世界が灰色になります。

色を失います。

最悪の場合

光も、失います。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・耳が聞こえんくなるよりマシやわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、俺は

 

自分の手と、空の見分けさえつかない。

 

 

 

 

 











「ケンちゃん、できたって言うてたやん。聴かして」

「えー、今?」

「あかんの?」

のんびりと言えば、ケンちゃんは優しく笑う。

もう何度も、

何度もこうしてきているのに、
ケンちゃんはいつも照れ臭そうにしてる。

うにゅん、と唇を少し突き出して。



何度も何度も見てきたものが、

俺の世界から姿を消していく。





「いい曲やな」

「やろ?」











・・・耳がダメになるよりマシ



でも 苦しさに





代わりはない

















ケンちゃんは、今日もきれいな赤い色。


俺の世界に残された

唯一の灯り。









僕が押し潰されるまで

このモノクロームに沈むまで





その
だけが



鮮やかな

軌跡になる

















「ここ、ええよなぁ」

「最初はめっちゃ悪趣味やって言うたくせに」



ケンちゃんがおもしろそうに笑う。




「落ち着くわ」

「居座らんといてやー」



















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