イーストウエストホームズ
ベスト。


















今日も元気に素振りをする。




そんな俺はkenちゃんです。


ギター弾いてメシ食ってます。


ちょっとだけ歌ったりとかも始めましたー。


そんで、今の主な活動は
やきゅーでーす。









「マメとか作んなよ」


ダメ親父っぽく座ったSAKURAが俺の素振り姿をじろじろと見ながら、
ぽんと言葉を投げてきた。

それに合わせて、またバットを振る。
空気が切れる。音が鳴る。
じわっとまた、汗が滲む。



「そんなんせぇへんもーん」



仮にもプロですから?
それは自分やってちゃんとわかってる。
爪の手入れも怠らずに。
ギターは別。



「そんなことよりSAKURAもちゃんと練習しろや」
「バットよりスティックを愛してるのよ俺は」




むーーーっ。


もう1回ぶんっと振って風を鳴らしてから、コトンと先っちょを地面にくっつけるように
下ろした。
「比べてんの?」
「ちがうよ」
苦笑。
俺はニヤッと笑った。






「花のこと覚えとる?」



真っ赤な壁が視界を染めるのにも馴染んで、ここに入るたびに細められる
SAKURAの目をいつも通りに見て。
俺はふいに聞いてみたくなった。


「花って?」
「前SAKURAが持ってきたやん。ここに。白いやつ」
「ああ。あれね。kenちゃんにいじめられて散ったかわいそうな」
「しつれいしちゃう〜」
否定せぇへんけど。
「なんだよ急に」


えっへっへっへ。
俺はぴっと部屋の奥を指差した。
つられるようにSAKURAがそっちに視線を伸ばす。
その先には、薄いブルーの一輪坐しにちょっこり立たされた細身の茎とつぼみ、
と葉っぱ。
花のガクの部分の端っこからちょっとだけ覗く花びらの色は、
ちょっと毒々しい色なんや。
「黒い花なんかないって言うたやろSAKURA」
「そうだっけ?」
「言うた」
もう俺は上機嫌。なのに次のSAKURAの言葉でそれはあっさりぶち壊し。
「でもさ、咲いたらあれじゃない? 濃い紫とか濃い赤とかじゃない? そういう花って
 つぼみんとき黒く見えるよ」



むーーーーっ!


「咲いても黒かったら?」
「すげーなぁ」
「すごいやろ?」
「うん。・・・なんでそんな拘ってんのよ」
「べつにー」



俺の勝手やーーん。



俺はふらふらと花に近付いて、そしたらSAKURAもなんとなくついて来るみたいに
なって、俺は壊された気分の回復を試みる。




「真っ黒に咲けやー」





つぼみにキスして、SAKURAを見やる。
苦く笑う顔と、肩ぐらいまでのプリン頭。表情で言いたいことは分かったけど、
俺はとりあえず満足。俺をもっといい気分にさせるためにこの花は、
黒く咲かんとアカンのや。
「赤か紫だよきっと」
「黒」
「ふーん」
絶対に黒く咲くで。
やって俺が咲かすんやから。













せやけど。

花は黒くなかった。
赤だった。血みたいな、濃い赤。
SAKURAの言った通り。



鮮やかな壁の赤とは違う、毒々しい紅の花。
花弁もなんだかびらびらした大きいやつで、全然かわいくない。
すんごい、かわいくない。
つまんね。


こんなん、いらへんわ。









「そういじわるなことしないの」


SAKURAが笑いながら、でろんとした花弁を摘まんで引っ張る俺に
近寄ってきた。
「かわいそーじゃん」
「どこが」

溜め息をつくSAKURA。なんか・・・うざってぇ。
花を目の前に座ってる俺は、テーブルに腕を乗っけてその上に顎を乗っけて
だら〜っとだらしな〜い格好をした。
隣に立ったままのSAKURAが横目で見下ろしてくる。
「なにがそんなに気にいらないのよ」
「黒くない」
「しょーがねーだろ。らしくないこと言って」
「・・・・・・うっさいわ」






わしゃわしゃと髪を混ぜられる。同じようなことをされたことをふいに思い出した。
「なにすんねん」
「わがままばっか言って」
「・・・ねぇ」







じゃあ、直してや。


薄い金色の髪が肩で揺れた。
髪の中に入り込んでるSAKURAの手が俺の頭を掴んで、引き寄せられるままに
少し上を向いた。



近くに感じる体温が、もっと近付く。自分からも、距離を縮める。
目ぇ閉じてもーたけど、あともう数センチ。それくらい分かる。
分かったから、俺は目を開けた。


「バッティングセンター行こ」




ニヤンと笑ったらSAKURAも破顔した。























カッキーーーーーーン

「おー」
「景気いいねぇ、にーちゃん」
「えへへー」

三塁側左中間に飛んでった白球を見上げ、
隣りのボックスにいた中年のサラリーマンが笑いかけてきた。

なんか知らんけど、今日は絶好調やわー
次は一発、ホームランでも狙おうかしらね。



「おーおー、ムリしちゃってまぁー」
「ムリなんかしてまっせーん」


高々とバットを振り上げ堂々のホームラン宣言をかます俺に、
背後でベンチに座ってるSAKURAがちゃちゃいれてくる。
けど、ムシムシムーシっ






カキーーーーーーンッ






「いったぁーーーっ!」
「うっそぉ」


カブレラ並みの打率あんじゃねーの?
打ちあがった白球を仰ぎ、SAKURAは小さく笑う。
目を眩しそうに細め、口の端を上げて。





あのときといっしょ。
花にキスをあげるときと、いっしょのカオ。





俺はイメージを振り払うように頭をぶんぶん振って、すぐまた目の前の
擬似球場に向き直った。



ぶんっ



勢いよく振ったバット、鈍く空気を輪切りにする。


あーもーほんまに絶好調やわ。
あーあーあーあー・・・・


・・・・・・・・あーあ。




「kenちゃん」
「なに」


も、よりによってSAKURAも声かけるタイミング最悪やし。
アナタのタイミング悪打率もカブレラ並みねー


「なにーぃ?」
 ぶんっ


呼びかけておいて無為に沈黙を挟むから、またバットを振って急かしてやる。
SAKURAに背中向けたまま、ちょっと声張り上げて。




「うち帰ろっか」


「・・・・・・」


 ぶんっ


返事の代わりに、またかまえたバットを振る。


俺は無言で
ただ空気を殴る。



「帰りに花屋寄って」


ぶんっ  ぶんっ  


「黒い花買って」


 ・・・・・ぶんっ


「うち帰って、あの赤い花に水あげよ」


・・・・・・・・・・・


「・・・・・うん」


バットを下ろし、振り向いたら、SAKURA笑ってて。


ずるい。
SAKURAはずるい。


やさしすぎる。
花にも、赤にも、俺にも。






あの赤い花は、愛してなんかやれへんけど。
SAKURAみたいな真っ黒な花なら、たとえキレイに咲かなくったって、
毎日惜しみないキスをしてあげる。





「白い花も、買ってこ」





あの毒々しい赤い壁に映える、純白の花も。

SAKURAのキスさえあれば、真っ白なままで、いれるはず。





俺の 赤に 侵されずに。


























  今日もキレイだなぁーレッドー


  なにそれ。


  ん?花の名前。
  レッドと、ブラックと、ホワイト。


  そんな戦隊みたいな名前いやぁ〜〜っ
  レッドじゃなくて、ビクトリア!


  かわいがってあげてんじゃん、ちゃんと。
































うちに帰ろう。

帰って、あの花たちに、水をあげよう。

俺らを、きっと愛してくれてる、あの花たちに。






















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