右手に花を











鳥の巣になるんじゃない?



笑いながら言ったら拗ねたみたいな不満気な顔でもするかな、と思ってたんだけど。


「ホンマ? タマゴ入れといたらヒヨコとか出てくるかな?」




全然嬉しそうにそんなこと言うから俺は閉口した。





kenちゃんって、やっぱり変だよ。







なにが鳥の巣みたいかって言ったらあの頭だよ頭。
フワフワパーマで爆発してるあれ。
kenちゃんがその頭になってから会ったのが、寝起きの寝癖爆発しちゃってるときだったから
尚更だったんだろーけどさ。
俺だってパーマだけどさ。
でも違うよ。あんな爆発しないもん俺。

ホントに・・・今にも「ピヨピヨ」ってさ。茶色い毛玉の中から雛鳥とかが出てきそうだったもの。
・・・ってピヨピヨってなによ俺もさ。なんだよもう。
とにかく、ちょっとびっくりしちゃうくらいの・・・もさもさっぷりだった。



真っ赤な壁のkenちゃんスタジオには真っ黒でプリン頭な人とkenちゃんよりデカイ人。
フワフワ揺れる毛玉が、その間を動き回っていた。



「ゆっきぃ〜コーヒーのむ?」
「うん。もらおかな」
「やって。さくらぁ」
「・・・はいはい」



・・・・・・なんか。
なにソレ。
なに今のって。
なんか・・・・・・変、でもないか。kenちゃんだしね。きっと変じゃない。


スタジオ常備のコーヒーメーカーが音を立て始めて、装飾品のないカレの手でカップに注がれる。
・・・誰が洗ってんだろ。
どーでもいいけどさ別に。どーでもよくもないか。俺も飲むんだし。
「はいどーぞ」
「ども」





毛玉は何も言わずに受け取って、当たり前みたいな雰囲気で軽く目を伏せながらカップに口をつけた。
相変わらず長い脚を行儀悪く机の上に乗っけて軽く組んで、
その隣に座ったプリン頭が自分のカップを目の前に置いたまま煙草を咥えた。
kenちゃんの手が自然とジッポを掴んでカチャンと音を鳴らして、
受け取りやすく顔を少し前に出したカレの口元に火を近付けて。

やがてまた拓けた空間から、白い煙がゆらりと上がった。
コーヒー出されてないもう1人は、今だ熱心にぷれすて中。
・・・あ、あそこ隠しアイテムがあるんだけどな。
まーいーや。




・・・やっぱりkenちゃんの頭からなんかが顔見せてる気もするんだよ。
なんかが、ひょっこりと頭出してそうな気がさ。
そのてっぺんが黒かったら・・・って、変なのは俺じゃん? なんなのよ。

そのときkenちゃんが急にこっち見てニヤッと笑ったから。
俺は口に含んでた熱いコーヒーをごくっと飲み込んじゃって、涙目になった。

 

「ゆっきぃ〜〜アルバムのほうはどーなん?」

 

なるほどそう来ましたか。

 

「うん、順調順調。たぶん初夏にはだせるよ」
「ユッキ、初夏っていつまでか知ってる?」
「え、知らない」



ユッキーらしすぎるわー
だなんてkenちゃん、大爆笑。
黒い人は相変わらず煙草銜えてるし。
デッかい人は相変わらずぷれすてやってるし。
俺は俺でなんか変だし。
なんだこの状況。



「そっちはどうなの?ぷっしーちゃんは。」
「や〜んユッキーがゆーとやらしいぃ〜〜」

はははあっそーぉ。
久々に聞くヘリウムボイス、それでもやっぱり、ちょっとはヘリウム減ってきてるよね。

「音はだしてるけどね。まぁそろそろ旅にでもでよーかなーなんて。」

旅、ね。
さて、ハードカバー担いでドラムセット積んで、どこに行く気なんでしょこの人たち。

「やっぱ思いっきりだしたいし、音。んで、やっぱ聞いてもらいたいし。
 その音をどうとるかは、聞く人しだいだけどね。」

kenちゃんは、煙草片手に笑ってる。
その言葉に、ふっと、懐かしい薀蓄を思い出した。

 

音楽ってさー音の上にあるもんじゃないじゃん。
ただの音波じゃないでしょ。聞く人の中にあるもんじゃん。
俺がどんだけあれ伝えたいこれ伝えたいってのがあっても、結局は聞く側がそれぞれに消化していくもんだから、
正しくは伝わんないし形もちがってきちゃうもんなんだよね。
だからやっぱり、多くは望んじゃいけないよね。
と思うけど。俺は。

 

理屈っぽいけど、そう言ってあのときもkenちゃんは煙草片手に笑ってた。
理屈っぽいでしょ、俺。
kenちゃんは自分のそーゆうとこ、あんまり好きじゃなさそうだけど。

俺は、kenちゃんの薀蓄聞くの好きなんだけどね。
屁理屈じゃないから。筋、通ってるし。
ブリリアンカットみたいに言葉つないでくるから、思わず納得して黙っちゃうんだよね、こっちは。

あんたはすごいよ。





















「アルバムできたらチョーダイね。」

玄関まで見送りにきてくれたkenちゃん、やっぱり髪をふわふわさせながら笑った。

「通販だから、買ってね。」
「うっそおー」
「いやホントホント。」

笑うとさらにふわふわ踊る髪が目先をかすめ、俺は思わず、本当になにも考えずに、両手をそん中につっこんだ。

わしゃわしゃわしゃ。

「なによぉ〜〜」
「kenちゃん、今完全に野生に戻ってるよね。」

髪も格好も音楽も。野放し状態。
そのままこっちの世界には帰ってこないんじゃないか。

毛玉みたいな髪したボーカリストと、
やわらかな表情のプリン頭と、
背の高い静かなドイツ人は、あまりに浮き世離れしてるので。

サクラくんとアインくんに、つなぎとめてもらいなね。

まったくこの人といったら、ちょっと目を離したすきにどこまででも飛んでってしまうのだ。
たんぽぽの綿毛みたいにさ。
風の向くまま気の向くままに。
音楽を、奏でる。








「ゆっき。」

kenちゃんは突然真剣な面持ちになった。
じっと俺の顔見つめて。

「北海道の名産って、なんだっけ。」

その瞬間、なんでか俺の脳裏には、ヒマワリ畑でふわふわ舞う金色の毛玉の画が浮かんで。

「ヒマワリ?」
「ヒマワリ!?」

そんなんゆう人初めて聞いた!
kenちゃんがまた馬鹿笑いをして、毛玉がまた揺れた。

「じゃあユッキーお土産にヒマワリもってかえったげるわ。」
「うん、楽しみにしとくよ。」

その頃にはきっとアルバムもできてるだろうから。
右手に馬鹿みたいに明るいヒマワリ持って、スタジオ遊びに来てよ。
こっちのクルーも、紹介するからさ。











右手に花を。左手には、いつも音楽を。

それだけで充分、つながってられるから。





























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