ブルーにこんがらがって
目が覚めたら。
別世界。
ってぐらいの衝撃でした。実際。ああここはどこーワタシはだれーなんて使い古されたセリフやけど。
今こそ使わしていただこう。ここ、どこですか?
「病院ですよー。」
・・・・・はい?
「北村さん、わかります?あなたねー道で倒れてたとこを、通りがかりの方が知らせてくれて、ここに運ばれたんですよー。」
もう三度目ですよ、説明するの。
かーいらしー看護婦さんの苦笑も俺の耳には届かず。
びょーいん?
俺、交通事故にでも遭うたのかしら。ようやく思い出したよーにあたりを見回してみて。
なるほどたしかに清潔感あふれる白いベッドやらシーツやら天井やら。あたりにたちこめる独特の空気やら薬品の匂いやら。
びょーいんであることはまちがいないとみた。うん。
なにより眼前にいらっしゃる看護婦さん、なかなかのナイスバディやし。しかしそれはそーとして。
どこを見渡しても。
俺、全然ケガしてへんっぽいんですけど。
ただちょっと首がおかしいぐらいに痛いんですけど。「道路で転倒して、後頭部を強打したようですね。検査しましたけど、骨に異常なかったから大丈夫ですよー。」
道路で転倒ぉ?
なにそれ、かっこわるー。後頭部をなにげにさすってみると、たしかにタンコブができてるし。
首の痛みはほっとけばじき治るやろ。「地面で強打したさいに、ショックでちょっと手先痺れたりとか、記憶が飛んだりしてるかもしれませんけど、時間がたてば治るんで。あまりにひどいときはまたいらっしゃってくださいねー。」
はぁと生返事をかえしつつ。
ふと思い返せば昨日の晩。
いったいなにをしてたのやら、ちーとも思い出せない。・・・あら?
昨日?「あのーすいません、今日って何日ですか?」
「3月22日ですね。」
これも三度目です。
笑う看護婦さん。3月22日?
ちょっとまって。全然笑えへんぞ、それは。
「えと、今何時ですか?」
「お昼の12時過ぎです。」
きゃー
けんちゃん、ピーンチ。「すいませんあのとてつもなく大事な用事があるっぽく頭の中でサイレン確実に鳴ってるんで退院させていただきますお世話んなりましたっ!」
ベッドサイドにかけてあった上着を引っつかみ、お礼もそこそこに猛ダッシュで病院を飛び出した。
なにやら頭の中はもやもやしててはっきりせぇへんけど、とにかく足が勝手に向かう方向へひたすら走る。
22日は絶対集合やで。
あああ思い出せへんけどだれかの声が頭ん中で響いてるーぅ〜とにもかくにも向かう先にはひとつの建物。
大急ぎで駆け込んだけど、時少々遅かりし、のよーだった。
「ちこく。」
息を切らして一応急いで来たらしいケンちゃんに向かって、ビシリと俺は人差し指を突きつけた。
22日は昼前集合やゆーたでしょー
つぎ遅刻したら罰金やで。「ご、ごめんなさい・・・」
息も切れ切れに、めずらしく素直にあやまるケンちゃん。
おや。
頭でも打ったんかな。心配したのも束の間。
顔を上げたケンちゃんははたと俺を見つめて。
一言。「アナタどちらさまですか?」
・・・・本気で頭打ったなコイツ。
「リーダーの顔忘れたなんて、ケンちゃんそれは勇気ある発言やわ。」
ほんとにね。
背後でハイドの言にユッキーが小声で同意してる。俺は、正面でぽけっとした顔の幼馴染みに向かってため息ひとつ。
「あのな、ケンちゃん、たのむからもーちょっとオトナになってちょーだい。」
「えーと。そんなアナタはなんで俺の名前知ってるんですか?」
「・・・・・・」
えー、っと。
ケンちゃん、顔がマジです。「ちょっとまって。まさかと思うけど、ほんまにこの人がだれかわからんの?」
ただならぬその気配に、いつのまにやらハイドが横からでてきて俺の顔を指差してる。
ケンちゃんはやっぱり真顔で。「わからん。てか、あんたもだれ?」
「うっそー。」
「しんじらんないねー。じゃあ俺も誰だかわかんない?」
ソファに座ったまま自分を指差すユッキーに視線をやっても、ケンちゃんはふるふると頭を振るばかり。
信じられん。
まさか、これって、キオクソーシツ?「ちょっとちょっとー、マジで俺のことわからんの?テツやでテツ。あんたの幼馴染みで、あんたと一緒にベースやってて、いつまでも心は少年シャアアズナブルが心の師であるちょっとおちゃめなテツやがな。」
「うんなんかまぁだいたいそのとーりやけど。鬼畜で横暴な我らがリーダーですよ、この人は。」
うるさいな。
横にいるハイドをぎろりと睨んで、もっかいケンちゃんをマジマジと見つめる。きょとーんとした顔のケンちゃん。
まるで俺のこと初めて知ったよーな。
今まで見たことない表情。ふざけてる様子は、全然なくて。
うっそー。
冗談きつー。「俺さぁ、俺ハイドってゆーねんけど、昨日の晩一緒に飲みにいったやん?覚えてない?車で途中まで送ってんけど。」
「うーんとな、よーわからん。なんか俺、道端ですっ転んで頭打ったらしいのよ。それで記憶飛んでるんかもしれん。」
病院おってん、さっきまで。
ケンちゃんの言葉にぐらりと眩暈がした。
すっ転んで、頭打って、記憶飛んだ?
数世代前のコントか!気付けばユッキーもよーやく重い腰を上げてて、
「ほんとにわかんないの?俺らのこと。」
「うーん、なんか・・・頭の中ぽやぽやしてる。」
「病院にもどれ!今すぐ記憶取り戻してこい!」
「お、落ち着いてテツくん。」
叫びつつ俺がきーっ!と地団駄踏んでたら、まぁまぁ、とハイド。
「こーゆのってきっと病院おってもどーにもならんて。そんな焦らんでも、一緒におったらそのうち思い出してくるんちゃう?」
「そーだね。俺もそう思う。」
「そーかなぁ・・・」
ケンちゃんの場合、ほっとったら一生思い出そうとせん気ぃすんねんけど。
でもまぁたしかに、記憶喪失となったらこっちとしては打つ手がない。
自然にまかせるんが一番ええんやろけど。
仕事に支障はでんのか?これ。と疑問を投げかけてみようとしたが、ハイドのが一足早かった。
「あ、そーいやケンちゃん、昨日のツケ。」
ハイドが眼前に差し出した手の平を見つめて、ケンちゃんは。
「ツケ?」
「飲み代、サイフ持ってんかったから、貸したったやん。」
「知らん。」
ガーーーーーーン。
という効果音が確実にハイドの頭の中で鳴ったにちがいなかろう。
「リーダーッ!!今すぐこのあんぽんたんの記憶取り戻させよう!!」
「ゲンキンだね。」
「俺よりおまえのがええ性格しとるわ。」
仕方ないので急遽ミーティングは後回し、ケンちゃんの記憶バック会議がとりおこなわれることとなった。
「えーと、健忘症。俗にいう記憶喪失。記憶障害の一種で、一定期間の記憶を再生できない症候だってさ。」
「ケンちゃんが忘れてんねんからまさしく健忘症ってかんじやな。」
「てっちゃん。笑えない笑えない。」
俺が真顔で首を振るとてっちゃんはえへへと笑って返す。
のんきに笑っとるばあいではなかろーに。ユッキーと一緒に「家庭の医学」をのぞきこんでるケンちゃんも、記憶をなくしてるとゆーのに、なにかと楽しそうな様子。
「アムネジア?花みたいな名前やねー。」
「ほんと。キレイな名前だねー。」
ユッキーはまるで子どもとしゃべってる母親みたい。
状況はわりと緊迫してるのに、広がる空気はのほほんと穏やか。しかしなにがなんでもケンちゃんには記憶を取り戻してもらわんと困る。
俺のサイフは、今すっからかんにちかいのだ。
ゲンキンな奴でもなんでもよろし。
文句ゆーなら金をくれーというやつである。
まぁそれは全然関係無いけども。「どーする?昔のこととかしゃべってみたら思い出すかな?」
「そんなんゆーて俺、昔ってどこからしゃべりゃええんかわからん。」
てっちゃんは両腕を組んでちょっと考えるポーズをとる。
まーたしかにこの人の場合、初対面からしゃべれー言われても、初対面のときなんて覚えてもないだろう。俺とてっちゃんでうんうんうなって考えこんでると。
「ハイドくん昨日一緒に飲みにいったんでしょ?そのへんから話せば?」
そーですね。それが一番いいですね。
ユッキーからありがたい助言をいただいて、俺はさっそく昨晩のことを思い出しにかかる。
「ええっと、昨日はなぁ、作詞作業があがって、ケンちゃんが飲みにいこーゆーて。いいだしっぺやのにサイフ忘れたんやったな、この男は。」
「そんなんどーでもええから。」
「よくないー」
「完全に私情やん。」
「ええやん、今のうちに言いたいこといっとかんと、今のケンちゃんやったら無抵抗やからな。」
「鬼かアンタ。」
「あーもー話進まねぇー」
半ギレユッキー、伸ばしきった片足が苛立ちのリズムを刻んでる。
怖過ぎです、この人。とりあえずてっちゃんとの掛け合いはさておいて。
「そんでフツーにケンちゃんのお気に入りの店いって。明日は仕事やからって早めに切り上げて帰路に着きましたね。」
「ふーん。でケンちゃん、なんか思い出せた?」
「ぜーんぜん。」
「・・・・・・・」
「こっ、このおにーちゃん怖い!」
あんまりに悪意なくケンちゃんが返答するもんだから、思わずものすっごい目つきで睨んだら。
素でケンちゃんを脅えさせてしまった。「な、怖いやろーこのおにーちゃん。正真正銘の、人間の皮かぶった悪魔やから。近付いたらあかんよ、食われるよ。」
そんなかわいらしー笑顔浮かべて好き放題言ってるてっちゃんのがよっぽど怖いわ。
俺から言わしてもらえばそれこそ悪魔のよーな笑みでてっちゃんはケンちゃんによしよししてあげてる。
いつもとは立場が逆でなんか笑える。「ね。俺思いついたんだけど。」
「なになに?」
よーやっと話し合いに参加してくれましたか、ユキヒロさん。
「古典的だけどさ、もっかいケンちゃんに同じくらいの衝撃与えたら記憶戻ってくるんじゃない?」
こちらもにっこり笑顔でユッキー。
「古典的というより暴力的デスネ。」
「そお?」
あかん。俺がなんと言おうとたぶんこの方は止められまい。
リーダー、あとは頼む。「そーやね。それがイチバンてっとり早いかもね。」
あら?
反対しないんですか、リーダー。「だって他にいい方法思いつかんしー。」
まぁな。
なんて俺までうなづいちゃったもんだから、ケンちゃんは思わず頬をひくつかせて。
「ちょ、ちょっとちょっとぉー。なんか、すごい、怖いん、ですけど、みなさん・・・」
ガタンッ
勢いよく立ち上がったリーダーに気圧され、ケンちゃんの声はしりすぼみ。
てっちゃんはやたら楽しそうに笑顔を刻み込んで。「さー、覚悟してもらおかー北村さぁ〜ん?」
「きっ・・・・」
にじり寄るてっちゃんに後ずさりするケンちゃん。
傍観してる俺とユッキー。
ケンちゃんの顔は、完全に引き攣ってて。「きゃーーーーっ!!」
悲鳴を上げて逃げ出したケンちゃんを追いかけるてっちゃんの表情はあきらかに楽しんでる。
それを一歩離れた場所で見てるだけのユッキーもそーとー悪人。
まったくこの人らの中で俺だけやな、唯一の常識人は。きゃーきゃーゆーて逃げ回ってるケンちゃんと、待てぇーへへへって本気でちょっと怖いやろそれはみたいなてっちゃんを止めようと思って立ち上がって。
「ちょっとストッ―――」
言い終わる前に。
眼前に、錯乱したケンちゃんが迫ってて。
あ。
やばい。
ぶつかる。
ガヅンッ!!
ものすっごい音と同時に、俺の視界はブラックアウトした。
衝撃音とともに激突したケンちゃんとハイドくんがスローモーションでゆっくり床に吸い込まれていって。
思いきり2人がぶっ倒れたあたりでよーやく俺の思考と体は動き出した。「ちょっとっ!2人ともだいじょーぶ?!」
「なんでいきなり進行方向に入りこんでくんねん!」
テツくんとほぼ同時に二人に駆け寄って、そろーっとのぞきこんでみたら。
ケンちゃんのほうは、いたたた、と呟いて素早く上半身を起こした。
「いったぁーーっ!もーなにすんねんハイド!!」
あれ?
「ケンちゃん・・・記憶戻ってる?」
「ん?・・・あれ?」
あら?あら?とあたりを見回しすごい絶妙なリアクションのケンちゃん。
悪いけど、すっげーおもしろい。「なんで、俺たしかハイドと飲んどったはずやねんけど・・・なんでユッキーとテツがいますの?」
「ケンちゃん記憶戻ってんな!よかったー!」
テツくんは喜びのあまり座りこんだままのケンちゃんに抱き着いてるけど。
抱き着かれてる方は、まったくなにがなにやらわかってない様子。あーよかった。
やっぱ俺の理論が正しかったね。仲よく(というかわりと一方的に)抱擁してる2人はおいといて、とりあえずまだ昏倒したままのハイドくんを起こしにかかる。
「おーいハイドくん、生きてるぅー?」
べしべしと額を叩いてたらいきなりばちっとハイドくんは目を覚ました。
お、ビックリしたー。倒れたままなんだか必死にまばたきを繰り返してる。
「ハイドくん?だいじょーぶ?」
声かけても反応無し。
あら?
だいじょーぶだろーな、これ。ぱちぱちぱち。
また数回まばたきをして。すっと上半身を起こし、ほっとしたのも束の間、俺を見てハイドくんはまたしつこいくらいにまばたきをして。
「アンタ、だれ?」
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
しばし見詰め合って。
「テツくーん。」
「ん?」
笑顔で振り向くリーダーに向かって。
「ハイドくん記憶喪失になっちゃったんだけど、どうしよう。」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
あ、どうしよう。テツくん動き固まっちゃった。
ケンちゃんは相変わらず状況わからなくてぼけっとしてるし。
ハイドくんはなんか宙を見上げたままだし。
海より深い沈黙。
・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・は?」
その瞬間のテツくんの顔、今まで見た中でイチバンまぬけだった。
....endless?
(あとがき)
11000ヒッツ、津野さあゆさまキリリクでしたー〜〜
えーと、皆さんおつかれさま(笑)わりと長くなっちゃいましたははは。
4人の視点でぐるりと回して書きたいなーと思ったんでやたらに長く。
でもわりと勢いで書けたんで、楽しかったです〜〜
遅くなってしゅいましぇん!!11000打ありがとうございましたーーっ!!
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