風まかせ

 

 

 

 

 

ケンちゃんが行方不明になってから三日が経った。

 

 

 

 

 

 いや、行方不明っつっても、ただ単に連絡とれないだけなんだけどね。

『お客さまのおかけになった番号は
ただ今使われていないか電波が届かない場所にございます』

 ブチッ。

 もういい加減このアナウンスも聞き飽きたんだけど。

 

 

 ポイッと役立たずのケイタイデンワを適当に放って、も一度眼前のパソコンの画面に意識集中。

 タバコ片手にモニター睨みつけて。

 すぐそばの灰皿は、すでに山積みで。

 本当はこれにもっと灰の山が加わるはずだった。

 

 

 「打ち込み詰まっちゃったからちょっと見てくれる?」

 って電話があったのが一週間前。

 うん、いーよ。
 そして家に来る約束したのは三日前。

 でもその日は俺が約束すっかり忘れちゃってて、気付いたのはあたりが夕闇に染まる頃で。

 大急ぎで家に帰ったんだけど、そこにはケンちゃんらしき姿も、留守電も、残ってなかった。

 ケイタイに電話してみても。
 ちっともつながらない。

 そもそも家の番号は知らないし。

 打つ手、なーし。

 

 

 ということでまぁそのうち連絡があるだろうと待っていたのだが。

 次の日も。

 その次の日も。

 そして今日も。

 連絡はない。
 電波もつながらない。

 

 

 もしかしたら変な連中に捕まって海に沈められたのかなー、とか。
 また車のドアにでも挟んでケイタイ壊したのかなー、とか。
 今の生活がイヤになって、どっか遠いとこへ逃亡してったのかなー、とか考えてみても。

 俺には、ケンちゃんが行く場所なんて、見当もつかないし。

 ケンちゃんが何考えてんのかなんて、ちっともわかんないし。

 テツくんみたいな長年の付き合いからくる知識もなければ。
 ハイドくんみたいな感性からくる勘もない。

 ないないないでない尽くし。

 

 俺はケンちゃんという人のことをなにひとつ知らないわけだけど。

 

 彼を形成するもののひとつなら。
 彼が作り出す「音楽」のことなら。
 たぶんちょっとは知ってると思う。

 

 メインコンポーザーだったりギタリストだったりアレンジャーだったり。

 最近は打ち込みまで覚えはじめて、100%近くまで音を作ってきちゃうこともあったりして。

 こんな言葉は陳腐だろうけど。
 無限に広がる宇宙を見た気がする。

 ひとたび六弦を弾けば。
 胸につっかかっていつまでも抜けないトゲ。

 こんな旋律をいったいどうやって生むんだろうと一度ケンチャンスタジオを訪れたら。

 ぼっさぼさの髪の酔っ払いが、楽しげに真っ赤なギター抱えてた。

 

 思わず足蹴にしてやりたくなった。

 

 

 この人にとったら、ごはん食べたり、ゴミ出したり、猫にエサやったりするのと同じ位置に、音を作ることがあるんだ。

 そう思ったら、なんか悔しくてしょうがなかった。

 

 

 

 

 

 

 凝視してたつもりのパソコンの画面がいつのまにかスクリーンセーバーに切り替わってて。

 ああ、全然集中できへんわー

 身についたエセ関西弁が、ため息と同時にもれる。

 

 タバコは灰皿に押しつけて。

 もう一度、放り出したケイタイを手にとってみる。

 

 野良猫じゃあるまいし、フラフラとどこいってんの。

 あなたの帰るべき場所はここでしょー。

 

 発信履歴を表示しようとしたその瞬間に。

 まるで計ったようなタイミングで。

 ピーーンポーーーーン。

 

 うっそー。

 

 首だけ振り返ってパソコンの時計に目をやれば。

 夜中の2時過ぎ。

 この時間に訪問者なんてありえない。

 非常識なあの男以外。

 

 

「どこいってたの。」

「うん、あのね。」

 夢で海辺にいる夢見て、んでどうもその風景がどっかで見たことある風景みたいで。でもどうしても思い出せんくて、車で東京湾からずーーーっと海岸走っててんよ。そしたら途中で、あ、あれはテレビで見た景色やわ、って思い出して、でも気付いたらずいぶん遠くまできててー、ついでにちょっと中部のほう行って、ダム見て、帰ってきました。

 玄関に立ってるケンちゃんはそれだけ一気に言ってしまうと、にっこり笑って。

「楽しかった。」

 コイツほんまにしばいたろかー
 ってゆう俺の険悪なオーラも気にも咎めない。

 じゃあなんですか。
 思いつきと衝動で突如車を走らせて。

 誰にもなにも告げぬまま。

 三日間もたった一人で旅にでてたわけですか。

 行き倒れてたら確実に死んでるね。

 本当、この人ってわかんない。

 

 しかしふと気付いて。

「もしかしてそのままここに来たの?」

「うん。ゆっきー待たせると悪いなーと思って。」

 もうじゅーぶんに待ったんですけどね。

 本当は2、3発蹴りいれてやろうと思ってたけど。

 ごめんねぇ〜って一応反省はしてるつもりらしいから。

 まぁ許してあげるとする。

 俺もちっとも探そうともしなかったしね。

 

 

 

 やっぱり俺にはケンちゃんってよくわかんないけど。

 きっとわからなくても。

 この人と音楽作ってるとシアワセだから。

 まぁ、それでいいんじゃないのかな?

 

 

 


14444ヒッツ、ライラさまキリリクでしたぁ〜〜〜
「なんでもないシアワセな話」。かつてここまでリクエストに沿わなかったことがあっただろうか。(←最悪)
佐竹にとってもシアワセってのは、どうもちょっとした日常から生まれる歪みから派生するらしい。
ケンちゃんってこう・・・すぐにふらふらどっかいって行方不明になっちゃうイメージが。あるんですよ。
そしてユッキー。最近ハマりなケンユキコンビ。
もっとですね、ユッキーがアグレッシプな話も書きたいですね(笑)
人蹴散らしまくるぐらいの。
こんな話でスイマセン!14444ヒッツ、ありがとうございますたぁ〜〜〜っ!!

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