その程度
20020505

 

 

 

 

 

抜けるような青空に
のけぞって
白い煙が舞った。

降り注ぐ日差しはぬるく

なのに冷たすぎる青。

 

すべて食い尽くしてしまうつもりか。

命とはつまり

海へ帰るのではなくあの見上げた青へ

溶け込んでいくのではないかと

思わずにはいられないほどの、美しさ。

 

「・・・ケンちゃん。」

 

震えた呼び声がなにを意味するかわかってた。
きっと今視線をやれば
テツは泣いてる。
泣けない俺の代わりに泣いてる。
見届けない俺の代わりに見届けてきてくれたのだ。

病院の駐車場に揺れるブランコは錆びついて
キィキィと軋んだ。

「ケンちゃん。」

視界を埋め尽くす青空に吸い込まれてしまいそうな、

その声に思い出す、もう何年も前の光景。

 

 

俺は薄灰色の絨毯の上に座っていて。
テツにしては珍しく、やや散らかった部屋。
玄関の戸口に立った部屋主が、俺を呼んで。
ケンちゃん。
顔を上げたら、笑顔のテツと、もう一人。
前にも紹介したけど改めて、とテツは前置きしてから
うちのバンドのボーカル。
初めて会ったときと変わらない、そこには
ぼうっとしてるのに悪魔のようなオーラを放つ人。

よろしく。

俺が笑いかけるまで向こうは全然動かなかった。

よろしく。
そう返して、差し出した手を握る。ただそれだけ。
なのに今もそこに残る、たしかな感触。

 

 

握った手の指先が好きだった。

俺のように、脇道には一切手を染めず
物を描き音を作る力だけを有し
そしてその才能を心から愛した指先。
弦を押さえる固い皮膚。
その感触が好きだった。
俺は
飛びあがったり舞い踊ったりする綺麗な歌声以上に
その指先が好きだった。

 

俺が進み出れば
にやにや笑いながら近付いて来て
一緒に弾かせろと強請る。
弦を爪弾く指先が輪を描き舞って
興奮と熱波にイカれた頭を抱えたまま俺は
それでも、その指先の奏でる軌跡は
信じられない程脳内スクリーンに刻み込まれている。

 

ステージに上がる決心がつかなくて伏せってたそこに差し出された手。

止まったらあかんよ。

強制的にでも俺を連れ出そうとして。

俺らはもっと進んで行かなあかんねんから。
ケンちゃんの未来、捧げて。

有無を言わせぬ強い口調。
握り返した手の指先は緊張でか少し冷たかった。
強い男だ。
そう思ったけどもたぶんそれ以上にその指先も強かった。
もう一度ステージに上がる事を強制し
もう一度俺をそこに連れ出した指先が。

声以上にその指先は歌う力をもっていたのだだから俺はその指先が好きだった。

 

 

 

 

だけれども触れた指先はすでに体温を失っていた。
皮膚全体が硬く強張り。
硬直状態に入ってもうすぐこの体は窒素や分解者によって細切れにされてしまうだろう。
体は土へと還るのか
きっと魂はあの青へ吸い込まれたに違いない。

あの日のようにその手を握ってみても
もう、忘れ難いあの感触は無くて。
ああまた失ってしまったのだと実感する。
握った手の指先が好きだったのに。
そこにはもはや
才能を愛した指先は無い。
俺が好きだった感触は無い。
あの日共に道を歩む事を選び
同じ時を刻み
そして俺をもう一度そこに導いた指先は
もう無かった。

ああまた失ってしまったのだ。
好きなものがまたひとつ
あの空へ消えていってしまった。
取り戻そうと必死に両腕を突き伸ばし仰け反っても
冷たい顔のまま広がる青。

だけど宙を掴んだその感触はあまりに握った指先のそれと同じで

きっとその程度の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

(あとがき)
16666ヒッツ立月沙弥さまリクでしたぃ!
ついにきたか死にネタ。ちゅことで。死ぬ事を主観的っちゅーか観念的に見ちゃったらたぶんどうしようもない話になるやろなーと思ったんですごい客観的視線にこだわってみましたが、なんか救われない話になっちゃいましたね(笑)もっと主観的に書いてもよかったかなぁ〜。けどケンちゃんの場合こう、大事なこととか自分により密接なことに限って客観的な視線になってくイメージあったんで、こーゆーことに。
あと佐竹はギターの弦をおさえる指ってのがすごい好きでして、いやベースも然りですが。いくらあの二つと無い才能をもった歌唄いでも、やはりその弦を押さえる指先は捨て難いほどに好きなのでございまする。
ま、言い訳はこれぐらいにしておきまして、そんなわけで16666ヒッツ、有難うございました!!
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