THANKS
3000HITS FOR YONA!!
reiteration tale
ツアー先で一泊したホテルでの出来事である。
その日は移動日で、予定より早めにホテルに着き、メンバーやスタッフもずいぶんのんびりとそれぞれの時を過ごしていた。
約1名を除いて。
新しくできたばかりだというホテルのロビーにあった大きなテレビで、サクラはぼんやりと夕方のニュースを見ていた。
見ていた、とはいっても見る番組がないからそのチャンネルにあわしていただけで、ヒマを持て余したサクラはすぐ横のソファに並んで座っていたケンの方になんとはなしに目をやった。
ケンは最初あまりロビーには来たがらなかったが、どうせもうすぐホテルの中のレストランで夕食を食うのだから、とサクラが部屋から引っ張り出してきたのだ。
「・・・・・・」
視線をやると、さっきからずいぶん大人しかったケンが、前かがみにうつむいて片手で口元を覆っていた。
のぞきこむと、目を完全に閉じていて顔色も悪い。
「ケンちゃん?どうした?」
「・・・・気持ち悪い。」
発せられる声にも、生気がない。
「大丈夫?」
「うん・・・いや、うそ、全然大丈夫じゃない・・・・」
そう言って両手で顔を覆い、ケンはさらに深くうつむいてしまう。
その冗談抜きでやばそうな様子に焦ったサクラは、ケンの丸まった背中をさすりながら、あわてて周囲を見まわした。
「ちょ、ちょっと待てよ、誰か呼んでくるから。」
「や、待って待って・・・ちょっとでいいからここおって・・・」
ソファから立ち上がろうとしたサクラの腕を強引につかんで、ケンは頼りなげにサクラを見上げてくる。
しかたなくサクラは再びソファに腰を下ろして、いまいちなんと声をかければよいか迷いつつ、ぽんぽんと背中を叩いてうつむいた顔をのぞきこんだ。
「・・・だいじょうぶ?」
「・・・あのな、あっちのほうにおるやん、男の人。じーっとこっち見てるやろ。
あの人。あの人ずっと見てるわ、俺らのこと。」
うわ言のような、ケンの言葉に。
「・・・・・」
振り向いてケンの指し示す方向に視線をやるが。
スタッフや普通の観光客以外誰もいない。もちろんこちらを見ている不審者も。
「その人のせいで気分悪いのか?」
「ずっと見られてんねんよ。やばいわ、ここ。あんまし長居せんほうがいいわ。」
意味はわからずとも、サクラはとりあえず素直に言う通りに、うつむいたままのケンを連れて部屋へ戻った。
こういう時の彼の勘はえてして大抵当たるのである。助言は聞くに限る。
彼に何が見えてるのかは聞くのが怖くてやめておいたが。
なぁ、知っとる?
このホテルな、前に建っとった古い旅館の跡地に建てたらしいねんけど、前に建ってた旅館は心霊現象が起きるんで有名やってんて。
そのせいで旅館も潰れてもーたらしい。
部屋で寝ているケンを欠いた夕食の席で、ハイドが嬉しそうにテツにそんな話をしていた。
やめてよ〜とテツが怖がっているのを横目に、どちらかとゆうとサクラの方がヤメテほしいと思っていたが。
とりあえずこの2人にさっきのケンの様子を話したらおそらくシャレにならんことになりそーな気はしたので、サクラは、「ケンちゃん乗り物酔いしたみたい」とだけいいわけしたおいた。
夕食後のミーティングも済み、時は午前2時。
自分の部屋が割り当てられているのに、ケンはわざわざサクラの部屋までやってきた。
調子は先ほどよりは幾分かマシになったらしい。
誰かといるほうが気がまぎれるから、と、2人一緒に借りてきたビデオなんぞ鑑賞していたのだが。
気付けば横で寝てしまっていたケンを、かいがいしくもサクラがベットに移してやってから数十分が過ぎた頃。
「・・・・う・・・」
弱々しいうめき声が、ビデオの音声の合間にもれた。
「・・・ケンちゃん?」
訝かしんで、とりあえずビデオを止めてから、サクラはベットで寝ているケンの方に近づいてみる。
寒いのか横向きに小さく丸まっているケンが、たしかにうなされているようだった。
「・・・う〜・・・うぅん・・・・」
「ケンちゃん?大丈夫?」
肩をつかんで揺らしてみても、反応はない。
ただ苦しそうに、顔を歪めるだけ。
昼間に調子悪そうだった様子と夕食の席でのハイドの言葉を思い出し、サクラはぞーっと寒気を感じた。
もしやこれは金縛りとかゆーやつではなかろうか。
そんなことがふと頭によぎったその瞬間。
バンッ!!
「!!」
突然強烈なドアを閉める音がして、反射的にサクラはケンが寝ているベットにすがるように飛び退いた。
早鐘を打つ自分の心音を感じながら爆音のしたほうをおそるおそる見やると、しっかり閉めてたはずの部屋のドアが、きー・・・と不安げな音をたてて薄く開いていた。
どっと、嫌な冷や汗が流れてくる。
理解不能な事態に対処しようが無くなったサクラは。
「はっ、ハイドさ〜〜〜〜んっ!!!」
とりあえず隣りの部屋へ助けを求めに走った。
「それは金縛り&ラップ音とかゆうものでしょうな。」
堂々と仁王立ちして、ベットで相変わらずうなされているケンを見下ろしながら、ハイドはやはり堂々と言い切った。
その横でテツが不安げにベットを見下ろしている。
「なぁ、金縛りやったら起こしたほうがええんとちゃうの?なんかうなされてるし・・・」
「う〜ん、けどさっき肩揺すってみたけどまったく起きなかったのよ。それどころかすげー音が鳴ったのよ。」
すごいビビッた、とサクラが真顔で言うものだから、テツは「うそ〜ん」と本気で嫌そうな顔をした。怖いのなら来んかったらええのに、とハイドに言われるが、でもおもしろそうやしと言い返してるらへん、案外肝がすわっている。
「よっしゃ、俺にまかしときー。秘伝の魔術でお祓いしたる!」
ハイドは楽しそうに目を輝かせながら、ベットの前に座り込んでなにやら色々と準備しはじめた。
怪しげな古い本、愛読してるホラー小説、テープレコーダー、黒い手鏡。
あきらかに怪しい。
テープが入ってない空のテープレコーダーを拾い上げて胡散臭そうに眺めながら、サクラは疑いの目線をハイドの背中に投げかける。
「・・・誰からの秘伝だよ。」
「ん?おかん。」
「めちゃめちゃ自家製やん。」
テツの冷めたつっこみも、ハイドの「温故知新〜」の一言に流されてしまう。
とりあえず何からやるー?と古い本をペラペラめくるハイドを、2人は背後からのぞきこんで。
「・・・どれでもいいんちゃう?なんかその本どー見てもハイドんちの秘伝レシピみたいやし。」
「このギョーザの皮をバターで焼くのはおすすめやで。」
「うまそ〜」
「サクラ。」
「・・・すいません。」
ハイドに悪ノリしたサクラを冷たい目で睨みつけて、テツは盛大なため息をついた。
「とりあえずさー、ケンちゃん無理矢理にでも起こしてもーたほうが早いって。手っ取り早く本人に話聞いて、万事解決といきましょ。」
「えーおもんないー」
さっきまでの怖がりぶりはどこへいったのか、テツがさっさといまだ寝たままのケンの元へ歩み寄るので、ハイドは思いっきり不満そうである。
相変わらずうーだのううーんだのうなされているケンの肩をつかんで、軽く揺さぶってみる。
「ケンちゃ〜ん、起きろ〜」
「ああっ!!」
突然テツの背後からハイドの素っ頓狂な声が上がって、テツと横にいたサクラは思いっきり前のめりにつんのめった。
「ビックリしたー・・・」
サクラがドキドキと脈打つ胸を押さえているのを尻目に、テツは恨めしげな目で肩越しにハイドを睨んで、
「も〜なんやのー」
「いや〜、すっかり忘れとってんけどさー」
テツの冷たい目線も意に介さず、気の抜けるほにゃらーっとした笑顔のまま、ハイドは。
「俺さっき部屋で寝とったときさー、金縛りになって首締められてなんか死にかけよってんよ。」
・・・・・・
「ケンちゃんっ!!起きろーーーっ!!」
「死んだらあかんでぇーーーっ!!」
その後強引に叩き起こされたケンは寝ている間のことをほとんど覚えてないらしく、体調もすっかり元通り元気になっていたので、ハイドはあとあと狼少年呼ばわりされたが、最初は反論していたハイドもそのうち笑って流すようになり、結局この事件はメンバーの記憶の闇へと葬られた。
あのドアの開く強烈な音やなぜケンの記憶が飛んでしまったのか、というさまざまな疑問を残したまま。
数年後。
「ねぇ、ここさ・・・なんかヤな寒気しない?」
ツアー先で一泊するホテルのロビーで、あたりを見回しながらユキヒロはなんとはなしに呟いた。
が。
「・・・・・」
その言葉にハイドとテツはお互い顔を見合わせて、にっこりとユキヒロに一言。
「気のせいやって♪」
その日の夕食の席に、ケンの姿はなかった。