ノーティボーイにゃかなわない 真っ白に反射するレフ板をぼけっと眺めていたら、ふと横からぐいぐい服を引っ張られる感触に気付いた。 視線をやれば、でっかい目で凝視してくるちっちゃいおっちゃん。 「なに?」 問いかけると、不思議そうにまばたきを数回繰り返して、 「けんちゃん、先週の水曜日俺と約束したこと、ちゃんとおぼえてる?」 「・・・・・・・・・・・・」 黙考すること数秒。 「おぼえてませんって顔に書いてあんで。」 「あ、バレた?」 「バレバレ。」 撮影中なので一応声は落としているものの、ハイドの批難するよーな低音ボイスはやたらに迫力があって怖い。 「ええっとぉ、なんやったっけ。」 「ほたるいか。」 「は?」 「ほたるいか。」 ほたるいか? 「友達が漁師やっとるから、ホタルイカの海釣りに連れてってくれるって約束。」 「・・・・・・は?」 思いっきりマヌケな声が漏れる。 「・・・・・・・おれ、そんなこと言った?」 「言った。」 「ほたるいかって?」 「ほたるいか。」 うんうんと大きくうなづくハイド。 「それ、いつ行く約束で?」 「今日。」 「きょお!」 「きょー。」 忘れてるぽかったから言うとこーと思って。今。 だがここで謝り倒して覚えてませんすいませんと許してもらえばいいものを。 「連れてってくれるよな?」 なんて、上目遣いに両手を組み合せて頼まれたりしたら。 「――――もっちろん!男に二言はなーい!」 やめとけと思いつつ覚えにもないも約束を引き受けてしまうケンなのであった。 携帯の電話口に叫びながら、ケンは思わず勢いで立ちあがっていた。 声に驚いてこっちを見ている撮影スタッフ達を無視し、ケンはぐらーりとめまいを覚えて再びイスに倒れるように座りこんだ。 「うそぉ〜〜あーマジでぇーどないしょー」 額に手をあて天を仰ぐが、いい考えが降ってくるはずもなく。 「オヤジさんは?まだ現役で漁師やってる?」 『やっとることはやっとるけど』 「マジで?!よっしゃ!」 『けど今ホタルイカの季節ちゃうやん。』 「!」 級友のキツイ一言に、あわれケンは再びイスに突っ伏した。 そっかぁーありがとぉーと一応の礼は忘れずにそのまま通話を切った。 ああ俺はたぶん今日死ぬ。 だいたいあの男との約束(身に覚えがなくても)をやぶって無事に済んだためしなどないのだ。 がばりと勢いよく立ちあがってすぐに頭を切り替えたケンは、数分後には撮影所のありとあらゆるところから集めたタウンページやらなんやらに囲まれていた。 「・・・・ケンちゃん、そんなとこでなにしてんの?」 撮影スタジオの隅っこで、なにかのオブジェのように積み上げられたタウンページの中、衣装を着たユキヒロは、暗がりでヤクザ座りして床に置いた雑誌と睨めっこしてるケンを発見した。 ケンはへろへろとん顔を上げ、しかも泣きそうな情けない表情だったので、思わずユキヒロはちょっと笑ってしまう。 「男と男の約束をぉ〜、守るためにがんばってんの〜」 「へぇー。」 相変わらずケンの説明はまったくもって不足だらけだったがそのへんは軽く流すユキヒロ。 「それはいいけど、ケンちゃん次じゃないの?」 ちらっとスタジオ中央に目をやれば、ごちゃごちゃと並んだ小道具に囲まれて撮影してるハイドの姿。 「あーほんとだぁー」 よーっと掛け声をかけ立ち上がり、ケンはフラフラしながら中央の方に寄っていく。 しかも撮影を終えたらしいハイドが、自然とこっちに歩み寄ってきて。 「ケンちゃん、楽しみにしてるからな。」 「うっ!」 にーーーっこり。 ハイドが姿を消してもまだ固まってるケンに向かって、ユキヒロは。 「なんか知らないけど大変そうだね。」 「はははー」 返ってきたのは力ない笑いだけであった。 カメラの調整や機材のセッティングでやや時間が空き、ようやくケンがげんなりしつつも撮影に入ろうかと思ったそのとき。 「あっ!!ケンちゃん後ろ!」 「いっ!?」 突如背後からテツの声が響いたのとケンの後頭部に薄い雑誌が激突したのはまったく同時だった。 「ったぁーー!!」 唐突な雑誌の襲撃を受けてしまったケンは批難がましい声をあげ、背後に振り返る。 「ごめぇーん!!チャーリーに当てるつもりやってんけど!」 びしとテツの指先は、スタジオ隅に逃げ込んだ馴染みのカメラマンを指している。 とばっちりを食らったケンは、もう今日は仏滅だと思ってあきらめようとがっくり肩を落とし、不運にも投げつけられた雑誌を拾い上げたのだが。 ふと、手にとったその雑誌に目が行き。 「なにこれ。」 中をペラペラめくりながら、寄ってきたテツに問うと。 「やーもうそろそろ季節やろ?見にいきたいなーと思って。久々に。」 嬉しそうに笑うテツに、雑誌を手にしたままケンは顔を向け、 「・・・・そーれはナイスアイデアやね。」 にーんまりと、極上の笑みを返すのであった。 「おつかれー」 撮影も無事終了し、ハイドが事務所スタッフとスタジオをでた頃にはすでに夕闇が迫っている頃だった。 さー今日は帰ってゆっくり寝るぞー 夕空を見上げ、のんびりと伸びをしていたハイドの目の前に、突然一台の車が割り込んできた。 パッパー クラクションが鳴って、助手席のパワーウインドウが開く。 「さっさと乗りー」 楽しそうににやりと笑って、助手席を指す。 「まさか、ほんまに連れてってくれるん?」 「男に二言はないとゆーたでしょー?」 誇らしげに胸を張るケン。 ・・・・・・冗談やってんけどなー 嘘の約束を本当に叶えてやろうというこの目の前の男に、呆れつつも感心していたりした。 しかしよもや自分が騙されてるとは知らず、それでも嬉々とした様子のケンにつられ、にんまり人の悪い笑みを浮かべハイドはケンの車に遠慮なく乗りこんだ。 「よーっしゃ、出発しんこー」 バタンとドアを閉めたのと同時に、ケンがいろいろと金をかけ手塩にかけている車が発進する。 そういえばこの男とどこかにでかけるのも久しぶりだ、とハイドは運転席のケンにちらっと視線をやった。 本当は先週の水曜に約束したことは、ただ久々に夕飯を食べにいこうというものだった。(しかもケンの方からのお誘いだった。「近所においしい寿司屋さん発見してんーイカめちゃめちゃうまいねんで!」) まさか、本当に叶えてしまうとは。 順調に走り抜けていく景色をなんとなく眺め、ハイドはふと疑問を覚えて、 「けんちゃん、これ、どこに行くん?」 尋ねると。 「んー?琵琶湖。」 「うそ。」 「ほんと。」 琵琶湖て。日帰りで行く気か。 「ホタルイカといわず、ほんもののホタル見せたるわ。」 ああ相手のが一枚上手やったな。 満面の笑顔を向けてくるケンに心の中でほんまもんのアホや、この人、と呟いて、それでもつられて笑ってしまうハイドなのであった。 |
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(あとがき)
19999ヒッツ、姫のリクでしたぃ!
えー実は今回のリクは、以下のセリフを使えというものでして、
「ケンちゃん、先週の水曜日俺と約束した事ちゃんと覚えてる?」
「あっ!!ケンちゃん後ろ!」
「ケンちゃん、そんなとこで何してんの?」
ね、ムリヤリやけどなんとか入ってますやろ?笑
むずかしかったっすわー!おもしろかったけど!
久々にギャグ風味で。構想思いついてからはわりとすぐに書けました。
琵琶湖の近くに絶好のホタルポイントありますよね。1回いきたいなぁー
そんなわけで19999ヒッツありがとうございましたー!
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