THANKS 4500 HITS!!FOR ライカさま☆

 

 

 

 久しぶりの休みを利用して、帰郷した大学1年の冬。

「ただいまー」

「おかえりっ!」

 うちの玄関を開けて第一声、あたたかく迎えてくれたのはなぜか満面笑顔のテツで。

 そのままなかば引き摺られるようにして、俺はその幼馴染みにあっさり拉致られた。

 

バンザイサンショウ。

 

 

 

「いや〜めっちゃめちゃええタイミングで帰ってきてくれたわ〜!さっすがキタムラせんせ!あ、コートはこっちかけといて〜はいはい、ここ置いとくな。はいリュックも置いて、はい、ここ座って〜。あとでお茶だすから。なにがいい〜?緑茶ならあったかいのあるで?」

「えーと、じゃあ緑茶で・・・ってなんで俺はおまえの部屋に連れてこられてんねん!」

 いつのまにかコートも脱いででっかいリュックも下ろさせられて、そのうえあったかいヒーターがついた部屋に入れられ勉強机の横に設置された折畳みイスに座らされた時点で、ようやく我に返ったケンちゃんは、思わず立ちあがってキーッと叫んだ。

 俺のペースにはめられたことに今更気がついても、時すでに遅し、である。

 立つとやや見上げる角度にあるケンちゃんの両肩をがしっとつかんで、俺は笑顔のまま無理矢理もう一度イスに座らせる。

「まぁまぁま〜、落ちついて♪ケンちゃんのおかあさんにはちゃんと了承得たから!」

「なんの了承よ?」

 機嫌悪そうに口をとんがらせて、ケンちゃんはぶすっとしながらも一応聞いてきた。

「今日1日おたくの息子さんを俺の家庭教師にお借りします〜って。」

「たのむから本人の了承もとってちょーだい。」

「おばちゃん快くうなづいてくれたで。」

「おか〜〜ん!俺のアイデンティティもちょっとは考慮してぇ〜!」

 窓から自分ちの方向に向かって叫んでるケンちゃんを横目に、俺はさっそく勉強の用意をはじめる。

「いい加減あきらめぇて。俺んちやったら三食飯付きお泊まりオッケーでかなりいい条件やし〜、問題が解決したらすーぐに帰してあげるからっ♪」

「無償で働くなんていやや〜」

 あーだこーだ文句を言いながらも相変わらずあきらめは早く、ケンちゃんは自主的に折り畳みのイスに戻って俺の勉強机の上に伸びていた。駄々をこねる子供のように、両足をバタバタさせている。

 とりあえず俺も自分のイスに落ちついて、机の上に置いておいたノートとプリントを広げた。
 「数学復習テスト」と銘打たれたそのザラバン紙には、どこかの国の暗号のような数字の羅列がひしめいている。
 思わずグラリと眩暈。

「せんせぇ〜、コレなんですけどぉ〜」

「なになに?うわ、根性悪そうな問題ばっかやなぁ〜」

 俺が一応健闘した跡である計算式があちこちに書き込まれているそのプリントを゛キタムラせんせい゛に差し出すと、゛せんせい゛はそれを眺め、なつかし〜と笑っている。

 まったく数式を見て笑えるその余裕を少しは俺にも分けてほしい。

「なにがわからんの?」

 せんせと一緒にそのプリントをのぞきこみながら、わからんゆーたら全部わからへんねんけどな、と心の中で呟いて、俺は迷いながらそのプリントの一点を指差した。

「これこれ、この高次方程式がわかりません。」

「ん〜、どっからわからん?」

「なにやってるんかがわかりません。」

「あははは、致命傷〜」

 至極まじめな顔をして返答した俺に、せんせいは爆笑しながらも、「これはな、」とすでに教えてくれる態勢。
 俺も身を乗り出して真剣にその言葉に聞き入る。

「この式で割った余りがこれやねんから、これで割ったときの、求める余りを・・・えーと、シャーペン貸して?」

「あ、はい、どうぞ。」

「どうも。」

 俺かが渡したシャーペンのヘッドを顎でカチカチ押しながら、せんせいはプリントを俺の眼前に置いて、空いたスペースに黒鉛を刻み始める。
 このやって見るとさすがバイトで家庭教師をやってるだけあって、本当に゛数学の先生゛のようだ。

「余りを、ax2+bx+cとして、商をQ(x)とするやん。したらP(x)は?」

「・・・・・・(x2+1)(x−3)、Q(x)〜、+、ax2+bx+c?」

「そうそう。」

 それで、条件からP(2)=5やから、とせんせいは説明しながら、数学のプリントはどんどん数式に埋まっていく。

 俺はなんとかせんせいについて行くために、普段使わんような脳味噌の端っこの方まで必死でフル回転。
 そのかいあってか、謎の数字の羅列であった高次方程式はちょっとずつその真の姿を現わして、ようやく問題は佳境へとさしかかった。

「で、x2+1=x2−(−1)で、−1は複素数でいったらなんになる?」

 複素数・・・と、オーバーヒート気味の頭でその単語を繰り返し、俺は脳味噌の崖っぷちギリギリでその意味を理解しようとつとめた。
 ゛キタムラせんせい゛は、黙って俺の言葉を待っている。

 ああ〜、複素数な、ちょっと待ってよ〜、いやいや、わかってんねんで〜複素数やろ?ほらほら、アレやん!

「i2や!!」

「ザッツラ〜イト」

 どうにかして絞り出した応えを、せんせいはにゃは〜っと笑って=の先に書き加えた。

 俺は何気に勢いにのって、ちょっとづつ頭が冴えてくる。

「あ、そーか!それでそこが因数分解で(x−i)(x+i)になるんか〜、なるほどなぁ〜」

 そんな考え方思いつかんかったわ、ていうかそんなん思いつくなんて人間やないわ〜

 やけに納得して、俺はひとりうんうんとうなづく。
 したらばキタムラせんせいはにやっと笑って、シャーペンと書きかけのプリントを俺に差し出してきた。
 思わず俺はうっ、と黙りこむ。

「じゃ、残りやってみ。」

「マジすか。」

 だいじょーぶ、もうゴールは目の前っ!なんてせんせいは励ましてるつもりだろうが、俺はせっかく晴れた青空にまた暗雲が戻ってきた心持ちで、力なくせんせいからシャーペンを受け取った。

「・・・わかった、じゃあ自力で解いてみる。」

「がんばれぃ〜」

 せんせいの応援を受けて、がしがし頭をかきながら俺はその難解な数式にシャーペン1本で立ち向かう。

 1分・・・2分・・・3分。
 遅々としてシャーペンが動かず、うーんうーんと俺が唸っている横で、せんせいはおとなしく俺を見守っている――――

 わけがなかった。

「うわー、ベース触るんて久々やなぁ。」

 いつのまにか横に座っていたはずのケンちゃんは、俺がベットの横の戸棚に置いておいたアンプにつなげっぱなしのベースを抱えて、しげしげと眺めていた。

 手伝ってもらっとるわけやし、この問題解けるまではほっておこうと俺は眼前の数学に集中するよう努力はしたのだが。

「おおさかでぇーうまれたーおんなやぁーさかい〜♪」

「・・・・せぇーんせぇ〜〜〜」

 たまらず俺がぐるりと背後に振り返ると、ケンちゃんは顔を上げて「ん?」というなんともボケた返事を返してくる。

 俺は半眼でケンちゃんを見据えて。

「やかましい。」

「・・・すいません。」

 一言それだけ言い放つと、ケンちゃんは素直に歌うのを止めた。

 

 

 

 その一言だけ残して再び机へと向かってしまったテツの背中を見届けると、とりあえず俺はベースを置いて、こりずになにか遊ぶものはないかと部屋の中を見まわした。
 テツは男にしてはわりとキレイに片付ける方で、見たことはないが逆に妹のほうがよっぽど汚いらしい。

 ある程度整理整頓された戸棚をのぞいてみると、やはり目立つのはベースやアンプ、コード、音楽雑誌に楽譜にテープといったものばかりで。
 教科書や参考書はそれらに場所を追われて隅に転がっていた。

 丁寧にラベルの貼られたテープや楽譜を手にとってみると、テツの音楽というものに対する信念と情熱が伝わってきて、俺には少々痛いぐらいだった。

「なぁ、テツぅー」

「ん〜?」

 呼びかけに、やや猫背ぎみに数学のプリントに没頭していたテツが生返事を返してくる。

 めくる楽譜に目を落としたまま、俺は呟くように続けた。

「テツさぁ、音楽で食ってく気なん?」

「うん。」

 机に向かったままのテツから思ってた以上にキッパリと返事が返ってきて、ああ、やっぱりなと俺は頷く。
 なんともテツらしい答え。

 楽譜をおいて、俺はテツの背中を地べたに座ったまま見上げた。

「学校の先生とかの反応は?」

「う〜ん、かんばしくないねぇ〜」

「はーん、まぁ当然やわなぁ。」

 再び積んであったテープを手にとって眺めていると、テツがイスに座ったままくるりと振り向いてくる。

「当然かな?」

「当然やろ。」

 今度は俺が即答すると。

「・・・・・はぁあ〜〜〜・・・」

 テツの口から、深ーい深ーいため息がもれた。
 俺はその見事な嘆息っぷりに、思わずちょっと笑ってしまう。

「前途ある若者がそんな深いため息すんなや〜。幸せ落っことすでぇ」

 テツはがっくり肩を落としたまま、うん、と小さくうなづくが、視線は俺の頭上を通り越して遠い先を見ていた。

「いいこと教えたげよか。」

 唐突な俺の言葉に、テツが眼前に座っている俺を見返してきた。
 俺は目をつむって、脳裏に蘇った文を唱える。

「どんなに最悪な日でも、1日のうちに3つ以上の災難は起こらない。3番目の災難が起こったら、今日1日を乗り越えたと、バンザイをしよう。」

 それは昔読んだ本に書かれていた一文だったのだが。

 テツは大きな目を1度ぱちくりと瞬かせて。
 にやりと、いつも通りの笑みを浮かべた。

「じゃあこの問題が解けたら、バンザイサンショウせなな。」

「そんときは俺も一緒にバンザイするわ。」

 お互い幼い頃のように笑い飛ばしながら。

 そういえば出すーゆうてた緑茶はどうなったんやろな、と俺はいまさらのように関係ないことを思い出していた。  

 

 

「せんせぇ〜、今日はどうもありがとうございましたぁ〜」

「いえいえどういたしまして〜」

 玄関で俺が深々と頭を下げると、ケンちゃんも丁寧にお辞儀を返してくる。

 背中には大きなリュックを背負って。
 明日にはもう、遠い地へと帰ってしまうらしい。

「気ぃつけて帰ってな。」

 玄関の扉を開けてケンちゃんを送り出しながら、俺は笑う。

 ケンちゃんも笑う。

「テツも、がんばりな。」

 いろいろ、と付け足して、小さく手を振りケンちゃんは夕闇の中消えていった。
 俺は、その後ろ姿をしばし見送って。

 道は違えてしまえど。

 いつかもう1度、ケンちゃんとバンザイサンショウできたなら。

 開けっぱなしのドアから冷たい寒風が吹きこんできて、俺は思わず「さむ〜!」と叫びながら、勢いよくドアを閉めた。

 

 

 


4500ヒット・ライカさまキリリク、「キタムラせんせ〜」でした〜。
見にくい構成で申し訳ない・・・ちょっとどうしても2人分の視点から描きたくてこうゆうことに。
てかそれなら2バージョン作れよって話なんですけど、まぁたまにはこーゆーのもいいかなぁなんて。
すいません、管理人ヘタレです・・・(笑)
しかもやたらと長いですね・・・ほんまは数学の問題だけにしとこーと思ってたんですが、なぜか人生相談までやっちゃいまして。
キリリクになると変に長くなるのはなぜだろう・・・精進しますm(__)m
こんなんできあがっちゃいましたが、よければライカさん受け取ってやってください〜
4500ヒット、ありがとうございました☆

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