数年前。
差し迫っていたレコーディングを終え、2人でちょっと飲みに行った帰り。
スタジオの駐車場まで歩きながら、バカ話してげらげら笑って。
ふと見上げた夜空が、あまりに陳腐に美しかったものだから。
冬やのにあんま見えんねぇ。
そうだなぁ。
サクラの息が白く濁って吐き出された。
立ち昇る紫煙を眺め。
実家のほうがよく見えるだろ?
うん、と俺は空を見上げたままうなづいた。
都会の空にこそ星が必要やのにね。
しばし呆然と、その東京の狭い空に瞬く星を見やる。
汚れた空気に浮かぶ光はいっそう美しく。
なぁなぁ。
ん?
再び歩き出しながら俺が服を引っ張ると、サクラは顔を寄せてくる。
俺は眼前に広がる空の一点を適当に指差して。
俺、あの星が欲しい。
3、4個しか見えない星のひとつをねだってみると。
サクラは俺の顔を見て、真っ白い息を吐き出して。
俺が死んで星になったら、それを丸ごとあげるから。
サクラは笑っていて。
俺はちっとも笑えなかった。
やっちゃんが星になってもどうせ黒いし見えんからいらん。
そら残念。
落としたタバコを踏み躙りながら、やっぱりサクラは笑っていた。
数年後。
「昨日アルコール96度のお酒飲んでさぁ、知ってる?スピリタスってゆうの。」
二日酔いだと言いながらケンちゃんは上機嫌にしゃべってる。
横でユッキーが楽しげにうなづいていて。
「ほんっっまにすごかった、あれは!お星さまになるかと思ったね〜。」
あははははっ、と2人して笑う。
俺はそんな2人を見てにっこりと笑った。
「ケンちゃん。」
「ん〜?」
俺の呼びかけに、ケンちゃんは肩越しに振り向いてくる。
「ケンちゃんがお星さまになったら、俺にその星ちょーだいな。」
俺は嬉しさのあまり言葉が弾んでいた。
それでもケンちゃんは笑って。
かまわんよ、なんて。
俺は。
青く美しいこの星さえも、誰かのものなのだろうか。
と、思った。