朝起きて、仕事行く前にゴハンあげよー思たら、ベスが死んどった。

 アホみたいに真っ青な空の日の、朝やった。

 

静寂の中に横たわる。

 

 リビングの、ソファの上で。

 いつも通り、寝てるんや思て、起こそうとして。

「ま〜たソファの上で寝たなぁー?うら、起きろ、ベス。メシやぞー」

 猫の毛だらけになったソファの上を陣取るそいつ。
 いつもやったら、「にゃあ〜。」ゆーて、生意気にも俺に向かって、大口開けてあくびすんのに。

 なかなか起きひんから。

「ベス〜?エーリーザーベ〜ス?」

 近付いて見て。
 なんか、ぐったりと手足を投げ出しとって。

 まるですべてを放棄してるかのような。

 静寂に横たわるその姿。

「・・・エリザベス?」

 おかしいって思って、そっと長い毛に触ってみたら、体が冷たかった。

 一気に、俺の体温も冷めた。

 

 ソファに座って、ベスをひざに乗っけて、ちょっとの間抱いててやる。

 いつもするみたいに、そのキレイな毛をなでて。

「なぁ、老衰って年でもないやろ?おまえ。」

 応えはなく。

 ベスの体は冴えきって俺を冷たく拒絶するのに。

 ・・・・その姿の、あまりのやさしさに。

 

 手足を投げ出し、静寂に横たわるその姿。
 ただ死に場所を、ここにしてくれて良かったと思って。

 その穏やかに閉じた目を見て。

 死んだんやなぁ、って、思った。

 

 子供の頃に、家で飼っとった犬が死んで、近所の山に埋めにいった。

 俺は、剥製にしたいと思った。
 その冷えたやさしい体を、いつまでも抱いてたいって思った。

「土に還してあげんねんよ。健は、今日からその上で生きていくねんよ。」

 その土を踏みしめて、生きていかなあかんよ。
 チャッピーは、あんたが生きるための大地になんねんから。

 オカンにそう諭されるまで、俺はずっとそのやさしい死体を抱いとった。

 穴にそっと下ろして、土かぶせたらどんどん見えんくなって。
 俺もこうやって死にたいなぁって、考えてた。

 家族が1人欠けて、気付いたらその生活にも慣れてしまってたけど。

 忘れるなんてことは、ひとときもなかった。

 

 

 エリザベスを近くの山に埋めてから、何日か過ぎても。
 俺は、朝になると彼女の姿を無意識に探して苦笑した。

 いつか彼女のいない生活にも慣れてしまうんやろうけど。

 静寂の中に横たわっていた彼女の姿を、一生忘れることはないと考える。

 ダイニングの端に置かれたふたつの小皿は、その意義はなくなってしまったけれど。
 存在だけは、いつまでもそこにありつづけた。

 

 一瞬にして消え去ってしまう、命というもの。

 なにかのことで、それはまるで無作為に潰されるかのように、ただ俺の手元に残る、それこそが「死」というヴィジョン。

 不意に日々に訪れるその瞬間に、一生のうちに何度立合うことだろう。

 手繰り寄せるように繋いでみても、切れてしまった糸の修復など。

 できるはずもない。

 

 

 俺は、強くはないから。

 きっと毎日消えていったものに慣れて生きてしまうけど。

 静寂に沈むその姿を忘れることなんて決してないから。

 大地にでんっと両足つけて。

 生きていこうと思った。

 

 


ごめん〜、エリザベスちゃん、勝手に殺してしもて〜!(平謝り)
ケンちゃんが「昔飼ってた」ゆーてたんで、つい。いや、ほんまにゴメンね、エリザベス〜
うちん家のドルトンって魚が先日唐突に死んでしもて。
慣れませんよね、死なんてね。
小学校の頃に飼ってたウサギが死んだんが初めての経験やったけど、
おじいちゃんが死んだときもおばあさんが死んだときも、
同級生や部活の先輩が死んだときも、アホみたいに大泣きしました。
それでも今こうやって日々を暮らす自分が、なんか変やなぁとたまに思いますね。

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