二次的逃避行。
「昨日なぁ、帰りしに虹見たで。」
独り言のように呟いてハイドは、タバコを灰皿に押しつけた。
ぼんやりと、全員の視線がハイドに注がれる。
「うそ!ええなぁ〜!いつ?」
「んーと、4時5時ぐらいかなぁ。」
「夕方の?」
「うん、夕方」
「ええなぁ〜、俺も見れるかな〜思て窓の外見とったのに〜」
即身を乗り出して話に乗ってくるテツはまるで子供のよう。
タバコをずっとくわえたまま無言だったケンも、ようやくタバコを唇から離した。
「太陽から斜め42度が狙い目やで。」
「ほんま?斜め42度?」
「めっちゃ微妙やなぁ。」
嬉しそうにケンの方に振り返るテツの向こうで、ハイドがのんびりとタバコを吸っていた。言葉とともに、白煙が踊る。
「なに、それはなんか科学的根拠があるの?」
もらった資料でまた難解な折り紙に挑戦しているユキヒロも、会話に混じってくる。ただし、視線は手元に落ちたまま。
「うん、なんかで読んでんけど、虹は太陽から斜め42度からしか見れんらしい。」
「へぇ〜。知らんかった。」
ケンの言葉に、本気で感心するテツ。
「見える人と見えへん人とおるもんなぁ。厄介なやっちゃなぁ、虹っちゅーもんは。」
「虹の先には不思議な国があんねんよなぁ。虹の端っこってどーなっとるんやろ。」
「透けて見えへんのとちゃうやろか。」
「つかんでみたいとか思わへん?」
「あーわかる。小学校とかで水泳上がったらシャワー浴びるやん、あんときよう水の間にかかる虹をつかんでみたりした。」
「つかめた?」
「ムリムリ。」
「つかめんでええから、一回虹の上を渡ってみたいわ〜。」
「そっちのがムリやろ〜。」
「あっはっはっはっは。」
・・・・・
「――――で。」
沈黙の空白を埋める、チーフマネージャーの声。
「会議、先進めていいっすか。」
「―――スイマセン。」
メンバー4人、そろって頭を小さく下げた。