silly baby










 あきらかに変だった。
 その日のスタジオの空気は。

 おはよーさん等と欠伸しながら一歩踏み込んだだけで。
 わかってしまう。
 読めてしまう。
 このヘンテコな空気。

 ぎすぎすしてるのとはちがう。
 殺気立ってる訳でも無い。

 じゃあ何か。

「どうかした?」

 問えば。

「ケンちゃんが変。」

 

 見知ったマニピュレーターの一言は確実に的を得ていた。

 

 

 言葉の通り、けんちゃんは変だった。

 変というのはつまりいつもと違うということであって。

 だっていつものけんちゃんなら、こんな晴れの日に傘を持ってくるなんてありえないし(だいたい
雨の日でも面倒くさがって持って来ないのだ)
 こいつは紅茶党だからとか言って花瓶の水に紅茶をそそいだりもしないし
 今みたいに窓辺に座ってリリカルに空を眺めてるなんてこともなかった。

 それをやや遠巻きにして、ユッキーとてっちゃんと俺がいて。

 怒り爆発のベーシストやドラマーのご乱心は平然と笑って止めるスタッフたちも
 このギタリストの静かな奇行にはただ恐れるばかりで
 黙って見ているぐらいしかできないのである。

「どうしよか。」

 腕組んでユッキーはのんびりと構えてる風に見えるけど
 その実、声には心配の色がありありと伺えた。

「けんちゃんはねぇ普段きゃんきゃんうるさいから、わめいててくれたら大抵
のことはわかんねんけど、黙ったらほんまなんもわからんからねぇ、どうしようもなくなるね。」

 それで今がどうしようもない状態。

 俺は、そう言って、小さく肩をすくめた。

 静かさは平穏を意味しない。
 とくにけんちゃんの場合がそうだった。

 むしろ静かなのは危険信号であって。
 かといって警鐘が鳴るわけでも赤い灯がけたたましく光るわけでもないから
 どうしようもなくなる。
 まさに自分で言った通り。
 どうしようもなくなる。

 口煩くわめいてくれればちょっとは周りだって理解に努めるのに。
 肝心なときにこそ口を閉ざしてしまう男なのだ。

 そういえば以前にも似た光景があったと思い返す。

 あのときけんちゃんは遠い遠い空を見上げてた。
 タバコを挟んだ唇がかすかに動き
 それがまるで「たすけてくるしい」と呟いたように見えたから
 俺はもう一度部屋を出て、全部見なかったフリをした。
 なんと言えばいいのかわからなかったし
 俺に、そんな表情を見せないでほしかったから。

 黙ってるなら黙ってるで隠し通してくれればいいのに。
 時折、そんな表情を見せるものだから。
 どうしても気になってしまう。

 俺とゆっきーが並んでなんとなくその不穏なけんちゃんの様子を眺めてる横で
 てっちゃんは、スタッフとなんだかよくわからない難しい話をしていた。

 てっちゃんが何も言わないのは、まだこれが個人の領域だからだ。
 口煩いかもしれないけどてっちゃんは世話好きなタイプではないから、
 自分の範疇外で大体把握できてることにいちいち口出したりはしない。

 てっちゃんにとったら慣れたことなのかもしれない。
 けんちゃんの突発的な奇行は。
 すでに範疇外なのかもしれない。

 俺らもてっちゃんを見習って、ほうっておけばきっとどうにかなることなのだろうけど。

 窓辺に座って空を見上げその表情も真情も伺えないけんちゃん。
 どうにかしたいと俺は思う。

 おバカなおバカなかわいこちゃん。
 ぐちゃぐちゃの頭で何を考えてるのか今すぐ大声で叫んでみなさい。

 頭の悪い俺でも。
 ちょっとはわかろうとしてみるから。

 ユッキーもいるし。
 俺らのスーパーリーダーもいるし。
 アンタ友達ならここにはたくさんいるでしょう?

 きっと今すぐ駆け寄って
 背後からどついてやったら「なにすんのよぉー」とか言って
 笑って振りかえるに決まってるのだ。

 わかってんねんそんなことは。
 じゅーぶんわかってる。

 それでも。

 果ての無い青空を眺めながら苦しいと呟くその表情も実はそんなにキライじゃないのだと
 思ってる俺はやっぱり友達失格か。












(あとがき)
終わってないけどこれで終わりっす(笑)
最近はなんですか、鬱ケンブームですか佐竹さん。
はいちゃんとけんちゃんの友情物語を書こうと思って。
あんまクサイのよりはドライにいこうかと思って。
でも大誤算。佐竹はそーしよーと思わんくても勝手にドライになるんやったわ(笑)
こんなんも一種の友情やと思うんですけどね。男の友情ってわかんないです。ダッシュで逃げます。さよーなら。
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