ユアライフクルージング

 

 

 

 


 どうも。ハイドです。こんにちは。

 俺は大阪のボロアパートで下宿してる、しがない美大生。

 忙しない大学生活で課題に追われながらも、
 親元を離れ初めての一人暮しを満喫していたのだが。

 最近、なんとも厄介な居候が住み着くようになってしまった。

 ガチャリ

「おーおっかえりー」

「・・・・・」

 ちっちゃな我が家の扉の向こう、
 騒がしいテレビの音と、振り向く男。

 俺は玄関に立ったまま冷たい視線を向けた。

「まだおったんかい。」

「えへへー」

 男は床にゴロリと寝転んでまるで自分ちのよう。
 その体は半分透け。
 胴体と左こめかみからひどい出血をしていて。
 見るに耐えないほどだけど。
 もう、慣れてしまった。

 高校時代の同級生だった北村が死んだと聞いたのは半年前のことだった。

 バイクの事故だとか。
 詳しいことは知らないけれど。
 そもそも俺と北村は高一のクラスが同じだっただけで、特別仲がいいわけでもなかった。

 そのただの元クラスメートが俺のアパートに居着いたのは、つい先週からのことで。

 大学に遅くまで残っていてくたくたになって家に帰れば。

 今日みたく。
 「おかえりー」、と。
 のんきなお迎えがあって。

 それはまったく前触れもなにもない不意のできごとだったから。
 冷静に対処できないまま一週間が過ぎてしまった。

「なんでまだおるんよ。」

 買ってきたローソンの袋をキッチンに置きつつ、
 俺はチラリと寝そべったままのユーレイに視線をやった。

「えー?だって、今日のスペシャルミュージアムに品川円樂がでんねんもん。」

 見ぃたいやんー
 きっと複雑骨折してるであろう両足をばたつかせて、北村は猫のように床に伸びている。

 俺は、先週から数えてもう千回を越してるであろうため息をつき。
 先週から数えてもう自分でも聞き飽きた疑問を口にする。

「自分さぁ、ほんまなんで俺んとこ来たん?」

「さーなんでやろか。」

 言いながら。にやり。
 見上げてくるユーレイの顔には、あまりに確信犯的な笑み。

 きっとこいつはわかってる。俺が追い出せないってことを。
 だから余計に腹立たしいのだ。

 一週間前、床にちょこんと座っていた北村を
 蹴り出すことも黙殺することもできなかった俺は。
 このよく知らない男(しかも血ぃダラダラ)との、奇妙な共同生活を余儀なくされた。

「おいしそー・・・」

 すぐ隣りで夕食の焼肉弁当をじーっと見つめる目。
 その絡みつくよーな熱い視線を完全に無視して、俺はどんどん冷えた具を平らげてゆく。

「あ、あ、ああ〜〜・・・」

 最後の焼肉を一切れ、ぱくりと食いつくと、なんとも悲しげな声が漏れた。

「ああああぁ・・・・」

「あーもううっせーな。」

 尾を引きながらずるりとテーブルに突っ伏したユーレイを俺は冷たく一蹴。
 さっさと弁当のゴミを片しにかかる。

「やーきーにーくぅー食いたいよー」

 ものすごく傷口がパックリ割れてるこめかみのらへんをボリボリかきながら、奴はまだ駄々こねている。

 ユーレイはどうやら食べ物が食べれないらしい。
 否もちろんその必要はないのだが。
 テレビのチャンネルは変えれるのに。
 なんとも不便なんだか便利なんだかわからない体である。

 俺はユーレイに同情することはなかったけど。
 ただそれでも、
 なぜだか、早く失せろとは思えなかった。

 いつまでいるつもりかわからない。
 放っておいたら一生居着いてるような気もする。
 でもそれでも放っておくつもりだった。

 なんで俺んとこきたん?

 二日に一回は、そう問うた。
 あまりに不思議だったから。
 当時から友人の多かった北村が、なぜそう仲良くもなかった俺を選んだのか。

 なんでやろ。

 問答はすでに習慣と化していた。
 俺はため息をつく。
 北村は笑う。
 それでもその体は透けてるし。
 こめかみと胴体からは、生きていられない量の血。

 俺は放っておいた。
 ユーレイとの共同生活は。
 それほど居心地の悪いものでもなかった。

「それヤバイって。ぜったいそのうちとり憑かれるぜ。」

 大学の同級生の櫻は笑いながらでもちょっと真剣ぽかった。

「んーでもなんかあんまそんな雰囲気でもないねんよなぁー」

「甘い。成仏できないユーレイの考えることなんてそれぐらいしかねぇじゃん。」

 だいたいなんで半年もたってから現れるんだよ。

 櫻の指摘は正しかった。
 半年も前に死んだ人間が。
 なぜいまさら俺の前に現れたのか。

 にゃははと笑うユーレイの顔を思い出す。

 俺がお祓いしてやるよ。
 いつのまにやらそーゆー話になっていて、その日俺は櫻と一緒に
 あのユーレイの待つアパートへ帰った。

 扉を開ける瞬間。
 意味もなく、一週間前のことが脳裏によぎる。

 一人暮しのさみしい風景の部屋で。
 ぽつりと。
 座っていた男。

 俺はユーレイに同情することはなかった。
 でも。
 消えてほしいとも、思わなかった。

 ガチャリ

 開いた扉の向こうには。
 なにもない、さみしい風景があっただけだった。

 

 

 

 あの日以来あのユーレイはぱったり姿を消した。
 どこにいったのやら想像もつかない。
 もしかしたら成仏したのかも。
 でも知る手立てはなかった。

 奇妙な共同生活は唐突に打ち切られ。
 俺は普段通りの生活に戻った。

 一人で起き、一人で朝飯食って、学校いって、課題して、家帰って、一人で晩飯食って。

 さみしかった俺の部屋にもどんどん自分の作品が増え賑やかになった頃。

「ねぇ、高校のときいっしょだった、北村くんて覚えてる?」

 油絵の授業中なのに幸宏の手にはアクリル絵の具が握られていた。

「なんか最近俺の部屋に、いるみたいなんだけど・・・」

「品川円樂の詩集借りたがってたで。」

 にっこり笑い返して俺はまたキャンバスに向かい直した。












てゆーかまたケンちゃんユーレイかよーーーー(笑)
ってあとで気付いた。
品川円樂なんて人はいましぇん。
なんとなくこーゆー話を書きたくなるときがあります。なんともなーい話。
てっちゃん出せんかった。くやし。
cruiseには、ものほしげにさまよう、って意味もあるらしい。知らなんだ。(←受験生

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