百年たったら
すべての人間の記憶から
俺の存在は消え

百年たったら
俺という人間が
生きた苦しみや楽しみもすべて
失なってしまうのだ。


そこには何一つ残らないのだ。







時間はどこからきて
どこに征くのだろう。




俺は、どこまで流されていくのだろう。


















百 年 の 孤 独













「ケンちゃんはいまいち頼りきってないね。」

ハイドの言葉はいつだって唐突だった。

俺は左手でGM7を押さえたまま
眼前のソファに寝転がっているハイドを見やった。

「なにに?」

「音楽に。」

ハイドの言葉は唐突である以上に抽象的だった。

左の指の腹が弦に食い込んで
それでも、
つい数十分前のユッキーとの会話のことを掘り起こしてるのだ、
と、わかったのは、
ただのカンだったけど。
確信はあった。







「ケンちゃんてギター好きだね。」

あのときのユッキーの言葉はシンプル過ぎて逆に理解に悩んだ。

ピックを握った手をはたと止め、
俺はユッキーを見た。
唐突になにを。
言い出すのかと思って。

「えーと、どうゆう意味?」

「そのまんまの意味だよ。」

でもユッキーの顔を見ても真意は掴めなかった。
じつはドキリとした。
目の前でのんびりとタバコを吸うこの男に、
俺は、俺の中のなにかを暴かれた気がしたけど。

「んーーというより俺の場合はぁー」

視線を戻し
ピックでピィン、ピィンと弦をはじきながら。

「ヤなことあったらすぐに知らんぷりしちゃうヤツやから、
逃げてもまた帰ってきたくなるほど執着できるものがほしいだけ。」

命を賭けられるものをもたないから。
そーゆーものが、欲しいだけ。

・・・ギターなんかなくったって、生けていけるから。

はじかれた弦の音は鋭く刺さった。

あのときユッキーはなんて返答したっけ。
よく覚えていない。
たぶんある程度は察知してくれたのだろうと思う。
こーゆうときの俺は、
脳みそがどうしようもなく曲がり歪んじゃってるのだ。







視線の先にはハイドがいる。
ちょっと前までユッキーが座ってたソファにだらしなく寝転がってるけど、
顔を起こして、じっと俺を見てる。

あのユッキーとの会話をハイドに聞かれていたとしたら
それはマズイ。
たぶんハイドは言葉に表してしまう。
俺の脳みその曲がり具合を。

「百年もたったら消えてしまうもんやん。」

音楽なんて。
とは言わなかったけど。
音楽も、建物も、人間も、なにもかも、
消えてしまうやん。
俺の言葉はいつも曲がってる。
でもハイドはたぶんわかってくれる。

「百年以上前の音楽、今でも聞けるやん。」

「・・・・音だけ残ってもしゃあないわ。」

ぼうっとした声で返してくるハイドから目をはなし、
俺は自分の左手を見つめた。
視界の端、ギターのネックはかすんでる。
固まってた右腕を振り下ろす。
響くGM7の音色。
けれどすぐに消える。

悲しいわけではないと思う。
ましてや惜しいと思うわけでも。

ただ消えていく先を考える。
時間がゆるゆると俺の背中から迫ってきて、
目の前にキラキラとした流れを作っている。
この流れはどこへいくのか。
どこからきてるのか。
いつまで続くのか。
そしていつかは忘れてしまうのか。

「時間はすべてを解決するっていうけど、あれはウソやね。
時間は過ぎるだけやし、
人は忘れていくだけやわ。」

今ここでこうしてることも、
いつかは忘れ去ってしまうのだ。
時間の流れに飲みこまれて。

G、A、F#m7、B7。
震える弦を押さえつけ
爪弾いても
部屋に広がる一瞬の音。
霧散して、跡形も残らずに。

「時間は過ぎていくもんじゃなくて・・・育っていくもんやと思うよ?」

Gの音色に混じるハイドの声。
俺は顔を上げなかった。
左手の指先を見つめ。
A、F#m7、
それでもハイドの声ははっきりと俺の脳に届いてた。

「どうにもならんこともあると思うねん。
それはあきらめるんじゃなくて、受け入れることなんやわきっと。」

ハイドの言葉はいつだって確実に届いた。
俺の曲がった脳みそにも。

B7、G、A。

ハイドの言葉はいつにもまして抽象的だった。
それでも俺の曲がった脳みそには響き渡った。
はじく弦の音より強烈に。

撫でるようにピックを滑らせて、D。
俺が思いっきり右腕を振り上げるのとハイドの呼吸はまったく同時だった。

振り下ろしたピック。B、そしてEm7。

時は奏でて 想いはあふれる

拡声機を介さないハイドの歌声が、狭い楽屋に響き渡った。
A、D、Bsus4。
俺も必死だった。
次々に音を重ね。
消えないように、忘れないように、
流れを断ち切らないように。
俺はこの時を忘れたくなかった。

「俺の声、届いた?」

「うん。」

ハイドはにやりと会心の笑みを浮かべてた。
俺も笑い返した。

俺とハイドが死んでしまえば灰燼と帰すこの時間も
今の俺には、たぶん忘れられないもので
あってほしいと
思った。

 

 

 

 

 

 


ひねくれてんのは佐竹の頭だ!
というみなさんのツッコミが聞こえてきそう。(やめてぇ〜許してぇ〜)
たまには哲学な話を。
某ビデオで某教授が
「北村くんは時間とか哲学的なことを考えるのが好きだったね。」
とかなんとか言ってるからさっそくネタに(笑)
時の流れとは不思議なもんですなぁ。
まだまだ青い佐竹は忙しさに流されてるだけです。
話にでてくるコードは一応「虹」のんですがー
ときどきにせものが混じってそうなんで気にせんといてくださいネ!ネ!

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