アニミズム

 

 朝から小雨が降るでもなく止むでもなくパラパラと続き、気分転換にと今日は歩いて駅まででかけた。

 その帰り道。

 いささか安上がりなビニール傘をさして、軽やかに帰途についていた。

 歩き慣れた赤い道は舗装されていて、両側に植えられた木々の実や葉っぱがたくさん地面にへばりついている。

 ん〜ん〜んん〜、ん〜んんん〜♪

 謎の鼻歌が思わずこぼれでた。
 ジメジメした雨の日にはよく偏頭痛に悩まされる彼にとっては、それは最上級のゴキゲンな証。

 すこぶる元気な俺のバイオリズム。
 どうかこのまま無事に晴れの日を迎えさしてくれよ〜。

 適当なリズムにのせて、言葉が口をつく。
 周囲に人っ子一人いないのが幸いだった。

 が、しかし。

 ふと前方の道路側の植木に、がさがさと揺れる物体があった。

 犬だ。

 中型より少し小柄なその体を薄汚れた麦色が覆い、体を濡らしている。
 しかも四足歩行。あんな人間はいない。
 当たり前やろ。

 自分ツッコミしてからその犬をよくよく観察してみると、赤い首輪をしているようだった。

 飼い犬か、と思い道の周囲を見渡してみても、人影はない。

 犬は道路側の植木に沿って、てくてくとこっちに向かって歩いてくる。
 とはいっても彼は家側の植木沿いに歩いていたので、犬とはずいぶん距離があった。

 歩幅を緩めずに歩いていく。
 どんどん狭まる距離。

 じっと向かってくる犬を見つめて、反応を待っていたのだが。

 犬はまったくこちらを見ずに、そのままごく普通にすれ違った。

 視線は犬に向けたまま、ちょっと立ち止まる。
 やはり犬は降り返らない。

 そのお尻に向かって。

「どこ行くん?」

 声をかけてみたが。

 たっぷりそれから5メートルほど歩いて、犬はようやく、肩越しにこちらを降り返った。
 初めて目が合う。

 お互いその体勢のまま10秒間見つめあって。

 応えのないまま。

 ふい、と、犬はまた何事もなかったように真っ直ぐに歩き出した。

 ちょっとだけそれを見送って、彼もまた鼻歌混じりに歩き出す。

 

 雨の中、偶然であって立ち止まり、見つめあう男と犬。

 ―――まぁ、男と、犬、やねんけども。

 

 ただそれだけの話。

 

 

 


真の、山無しオチ無し意味無し話。
実は実体験。ぐっは。ちょっと書きたくなっただけです。

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