彼は、羽根を背負っていた。
肩甲骨あたりからにょきっと生えているそれは、白くて温かそうで、雨に濡れると重そうだった。
一度ハイドくんにそれを言ったら、きっとケンちゃんは、他人をシアワセにできる人種なんやろね、だって。
彼が背に負う白いそれは、たしかに見るたび幸せになれる気もした。
TPOによるけどね。
僕の見るスーパー・イリュージョン。
「ちょっくらごめんなさーいよっ。」
ケンちゃんが目の前を通ると非常に邪魔だ。
なんせそれは、わりかしデカい。
今もケンちゃんが、椅子に座ってぼんやりテツくんとテレビを見ていた俺の目の前を横切るもんだから、俺は大仰にのけぞってどかなければならない。
でないと、羽根が顔に当たってこそばゆいのだ。
「なにしてるん?」
大袈裟に避けてる俺を見て、ケンちゃんが小さく笑ってる。
あんたのせいだよ、あんたの。
特に口には出さずに呟いて、肩越しに振り向いて見下ろしてくるケンちゃんをじっと見上げた。
今日も彼が背に負うそれは、白くてほわほわしてて。あたたかそうな羽根をはらはらと風に揺らして。
でもやはりちょっと邪魔だった。
後ろから見てて、たまにひやひやすることもある。
ギターを弾いてるとき、とくにライブのときなんかは、いつもは垂れている羽根が全開に開くことがよくあった。
飛び跳ねるたびに羽根が舞い、それはライトを白く反射してキラキラ光ってた。
ハイドくんも羽根をつけてたりしたら、後ろから見ればなんか双子みたいでかわいかった。
あまりに気持ち良さそうにそれが羽ばたくものだから、そのままどっかへ飛んでってしまいそうな気さえした。
でもごくたまに、それは小さくしぼんでしまうことがあった。
ふわふわしてて、キラキラ光って、あったかそうなそれが、一回りも二回りも小さくなって、元気なく垂れ下がっている。
しかし本人はいたっていつも通り。
に、見える。
実際どうかはわからない。マイナスの波動を見せない人だから。
でも、小さく閉じてしまっているそれを見たら、俺もちょっとだけ元気がなくなる気がした。
おはよう、と声をかけられて振り返ると、今日も彼は笑顔でそれを背負っていた。
ふわふわしてて、キラキラ光って、あったかそうな羽根。
白くて鮮やかで、まるでシアワセの結晶。
もっと大きく育つのかな?
寝るとき邪魔にならないのかな?
ケンちゃんにはあれが見えるのかな?
いつか羽ばたいて飛んでっちゃうのかな?
シアワセを、俺にも、分けてくれるのかな?