午後5時27分11秒。 今日も一人で、待ちぼうけ。 プラットホームの風景(1) ガタンゴトン、ガタンゴトン、・・・ 地下鉄の平坦なリズムが、構内にこだまする。 プシューッ 気の抜けた炭酸のような音とともに、駅の構内に溢れていた人込みが、四角い入れ物の中に吸い込まれていった。 吐き出される数人の人達。一瞬のすれ違い。雑踏。狂騒。 けたたましい笛の音とともに四角いそれは再びリズムを刻みだし、痛いほどの真っ白な光を発しながら、闇の奥へと飲み込まれていった。 遠く、地下鉄の鼓動が聞こえる。 吐き出された人々は振り返りもせず、それぞれに薄汚れた階段を上って姿を消していった。 闇が強い地下に、人はあまり長居しないらしい。 プラットホームは、ただの日常の通過点。 ぼんやりと照明に浮かぶ取り残された構内に、彼以外は誰もいないようだった。 タバコの自動販売機のすぐ横。 備付けのベンチに深く腰掛けて、火のついていないタバコをくわえている。 もう春も間近だというのに、黒く長いコート。 季節に、置き去りにされた感じの。 呆然と眼前の黒いレールを見つめている彼に、ただ降り注ぐ淡い蛍光灯の光だけがやさしい。 それを遮るように、ふと座りこむ彼に影が差した。 なんとはなしに顔を上げると、いつのまにかすぐ側に小柄な男が立っている。 「こんにちわ。」 にっこりと微笑みかけてきた中性的な匂いのあるその男を、ぼんやりと見上げたまま小さく会釈を返した。 髪から服まで全身真っ黒のこの男が、いつのまに構内に現れたのか。 疑問はあまり気にならなかった。 「いつもここにおるね。」 ずいぶんのんびりとしたその口調は、整った面立ちからは想像できなくてミスマッチに思えた。しかし心地よい。 応えずに、そのままふいと視線を油に汚れた線路に戻す。 男は気にせずに、彼が座るベンチの反対側の端に腰かけた。 ゆっくりとした動作でタバコを取り出して火をつける。 はーっと吐いた煙が、構内の暗い天井を白く濁らした。 「毎日毎日この時間、なにを待ってんの?」 世間話のごとく呟かれた言葉に、とくに強要の色は見えなかった。 少し間をおいて、火のついていないタバコを指にはさむ。 鈍い光を放つ、シルバーリング。 男の方は見ないまま。 「・・・電車にね、乗りたいんやけど、乗れへんのよ。」 そう言えば人と会話をするのも一体何ヶ月ぶりだろうか。 思考は頭に浮かんですぐに消えた。 小柄な男が、タバコの煙を吐き出しながら、ゆったりと口を開く。 「そら、難儀やねぇ。」 無人のプラットホームに、男の声は心地よい歌のように広がった。 「俺もさぁ、ある人を待ってんねんけど、なかなか来おへんねんよなぁ。ずーっと待ってんのに。来たらしばいたらなあかんわ。」 こんなええ男待たしといて。 呟く彼に、思わず小さく笑う。 「すっぽかされたんとちゃうの?」 男を見ると、彼もこちらを見てにやりと笑った。 綺麗な顔に、悪魔的な笑み。 初めて目が合った。 「失礼な。」 しばしプラットホームに小さな笑い声が響いた。 と、男は唐突に立ちあがって、火のついたタバコを差し出してきた。 意図がわからず、男の顔を見上げる。 「また来るわ。コレ、あげる。」 あんたの火ぃついてへんからな。 断る理由もなくまだ煙を上げているタバコを受け取って、男に小さく手を振った。 男はまた笑って、「ばいばい。」呟くと、闇の奥へと姿を消した。 その後ろ姿を見送って、再び線路に顔を向けた。 久しぶりに吸いこんだタバコの味は、苦かった。
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途中で名前だすんすっかり忘れとって、文書くんめちゃめちゃしんどかった・・・ 三人称にしよー思てたのに、後半なんか一人称っぽいしな・・・しんどー あと2・3回目指してがんばります。・・・終わるかな、この話(オイ)